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どうしようもなく沸き上がる高揚感。どうしよう。まだライブ前なのに。
俺はドロップ・アウト……、いや。SSRが好きで。
それ以前に、バンドが、音楽が好きで。
「おはよ。弓弦、早いね」
程なくして、ギターを抱えてやって来た慧がセッションに加わった。特定の曲を演奏するでもなく、いつものようにアドリブの応酬が曲になっていく。
うん。いい感じ。リハーサルにはまだ早いけど、取りあえずはウォーミングアップってところかな。
只今の時刻は、朝の10時過ぎ。昼過ぎには、仕事を途中で切り上げた朗さんも合流することになっている。心なしかいつもよりテンションの高い慧と二人、ぶっ通しでセッションを続けても全く疲れは感じない。
『弓弦、いつもよりテンション高くない?』
マイク越しのその台詞、そのまま慧に返してやりたい。小腹が空いた頃にいったん切り上げて、親父の店で昼食をとった。
「おお、やってるな」
それから何時間もしないうちに朗さんも到着して、軽いセッションの後、何度も今日のセットリストの確認 をする。いつもよりテンションが高いのは朗さんも同じで、お互いに走り気味な自分達に苦笑う。
『ま、いっか』
元々がテンポのいい曲ばかりで、少しのテンポアップは問題ない。走り過ぎないように注意しようとお互いに頷き合って、初ライブの通しリハーサルも終わった。
この瞬間に、柴田 弓弦 はSSRのドラマー、シバに。海月 慧 はSSRのギター・ボーカル、Kに。朗さんこと、進藤 朗夢 はSSRのベーシスト、シンに変わる。
どうやら客入りが始まったようで、店のほうがざわつき始めた。ステージの設営は親父と親父の音楽仲間がやってくれて、俺達はリハーサルに専念できた。
「いよいよ、だな」
バンドマン仕様のKがウィッグの長い前髪を掻き上げて、マイクを通さず、いつもの、俺の大好きな笑顔を見せる。
「最高のデビューライブにしようぜ」
イケメン度数が格段に上がった朗さん……、じゃなかった。シンはそう言って、俺達に向かってウインクしながら親指を立てた。
「そんじゃ、行きますか」
Kの少し間の抜けた一言を合図に、俺達、SSRは夢の一歩を踏み出した。
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