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 ドロップ・アウトなら、小さめのホールぐらいのキャパなら余裕で埋まるはずだ。道内のライブハウスなら、全ての箱が歓迎してくれただろう。  それでも、親父の店を再スタートに選んでくれたことが嬉しかった。リスペクトする柴田貢の店なら願ったり叶ったりだと二人に言われたことを考えると、決して手放しで喜んじゃいけないんだろうけど。  ドラマーとしては珍しく、メジャーな某有名音楽レーベルから何枚ものソロアルバムを発表している俺の親父。しかもジャンルはロックドラムじゃなくて、ジャズドラムだ。  おまけに初めて発表したのは俺がまだ幼稚園児だった頃で、親父はジャズ界ではまだだ若造の30そこそこだったのだ。しかもドラムソロアルバムというある種、マニアックなジャンルなのに、全国の、特に道内のバンドマンに多大な影響を与えている。  例えばドラマーの端くれの俺がリスペクトするのは分かるんだけど、ギタリストである慧やベーシストである朗さんにまで親父はリスペクトされている。それは音楽性だけじゃなくて音楽に対する姿勢が与える影響が強く、俺たちが廃部寸前まで追いやってしまったが、東校の軽音楽部の一件が強く影響されているんだろう。 「おお、弓弦。起きたか」 「ん。おはよ」  眠い目を擦りながらダイニングを覗くと、いつものように親父が朝食の用意をしてくれていた。 「いよいよ。今日だな」 「うん。いろいろとお世話になります」 「こちらこそ」  そう笑い合いながら純和風の朝食をとり、少し早めに地下のスタジオへと向かう。  ライブは夕方の5時30分開演だけど、いつもならまだ店は営業中の時間だ。今日の営業はランチタイムが終わる14時までで切り上げて、それからライブの準備に取り掛かることになっている。  夕方以降とバーの営業時間はSSRのライブに宛ていて、ライブ自体は1ドリンク制なんだけど、高校生メンバーが在籍するバンドだけにアルコール類の提供は中止となった。  その辺りはソフトドリンクにも力を入れている親父と藤巻さんはしたたかで、特にバーテンでもある藤巻さんに至っては、アルコール抜きのカクテルを新たに何種類も作ってくれたようだった。  そんな二人に(むく)いるべく、最高のライブにしなきゃと改めて心に誓う。いつかはSSRで親父も越えてやるとの強い思いを秘めて、Aスタジオのドアを開けてドラムセットの前に座った。  この位置は実は最高のポジションで、客席はもちろん、後ろ姿だけどメンバー全員の姿が見える。 「ワン、ツー……」  軽くチューニングを済ませると、俺はおもむろにドラムスティックを振り下ろした。

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