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「ようやく手に入れた」 「――っっ」  そう呟いて、慧はそのものを抱く腕に力を込めた。慧の腕の中には俺……、じゃなくて一本のビンテージギター。 Chapter 1 ... 現状  しかも物凄く優しい目つきで見つめながら、とても優しい手つきでそのなめらかなボディー撫でている。 『弓弦、付き合って』  あの後、なんとか息を吹き返して何度も頷いた俺に、 『よかった。じゃあ、放課後。ジングルで』  事もなげに、慧はそう言った。 「なんだ、そう言うことか……」 「ん、弓弦? どうかした?」  もしかして、もしかしてだけど勘違いをしちゃったのだろうか。俺ってば。 「あ、いや。よかったね」 「うん。ありがとう」  覚悟を決めて告白しようとした矢先に慧からの『付き合って』だったから、てっきり、その……、俺の言いたいことを慧が代弁してくれたような気がしたのだ。  その日の放課後。俺は慧に『付き合って』いつもの楽器屋にまでやってきた。 「これさ。お取り置きしてもらってたんだよ。やっとローンが終わって俺のものになったんだ」  弓弦に一番に見せたかったとそう言われたら、もう告白云々(うんぬん)はどうでもいいと思ってしまう。  慧が手にしているのは有名メーカーのカスタムギターで、中古ながら二年前で50万円の値段がついていたものだ。二年前、ローンというか、店長にお取り置きしてもらった慧は、全額分を払い終えた今日、ようやくそれを手に入れた。 (……ま、いっか。慧、めっさ嬉しそうだし)  高校生で50万は、それなりに高額の部類に入るだろう。世界的に有名なメーカーのビンテージになると2000万だとかの世界で、一本、100万はくだらないのだが。 「本格的なのは大学を卒業して、完全に独立してからだな。分不相応だし」  と、慧は笑った。

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