61 / 63
04
思い掛けず慧と真正面から見つめ合い、俺は腰を浮かした状態で固まってしまった。惚けたような顔で慧を見つめる俺と、やけに真剣な顔の慧。
何故だか時間が止まってしまったような気がした。やがて、スローモーションのように慧の顔がゆっくりと近づいて来る。
改めて慧が好きだと実感した。特にこれと言った特徴のない、平均的な日本人顔のこの男が。
「……弓弦」
甘い吐息が耳に掛かってクラクラする。
「キスしていい?」
次の瞬間、俺の返事を待たずに、慧が俺の口を優しくふさいだ。
「……ふぁ」
うそ。なんで?
俺、慧とキスしてる。
キス自体は初めてじゃない。ファーストキスは中学生の頃で、初めてできた彼女と経験済みだ。
「……ん、ふっ」
「弓弦……」
男同士も初めてじゃない。正確に言えば俺の初キスの相手は親父で、物心がつかない頃は挨拶代わりにキスをしていた。
「んんっ……」
頭の中までとろけてしまいそうだ。てか、俺、なんで慧とキスしてんの?
キスしていいかと聞かれたが、なんでこうなったのかが理解できない。
慧もキスしたことがあるのかな。恋愛なんて興味なさそうなのに。
はっきり言って慧のキスはとても上手く、頭の芯から痺れるような心地に目眩がする。
「ちょ、待っ……、息、できな……」
息苦しさに思わず顔を背けたら、
「……あっ」
慧は俺の唇から自分の唇を離し、今度は俺の首筋に顔を埋めた。
慧、どうしてこんなことすんの?
もしかして慧も俺のこと……。
(――ちゅ、ちゅ)
仕切り直しするなら今しかない。今度こそ、ちゃんと告白しよう。
「……慧、なんでこんなことすんの?」
その前にどうしても聞いておきたいことがあり、俺のうなじに何度もキスしている慧に聞いてみた。その声は情けないほどとろけていて、ちょっと恥ずかしかったけど。
「え、だって俺たち恋人同士だろ?」
そしたら慧は、思い掛けないことを口にした。
ともだちにシェアしよう!