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 思い掛けず慧と真正面から見つめ合い、俺は腰を浮かした状態で固まってしまった。惚けたような顔で慧を見つめる俺と、やけに真剣な顔の慧。  何故だか時間が止まってしまったような気がした。やがて、スローモーションのように慧の顔がゆっくりと近づいて来る。  改めて慧が好きだと実感した。特にこれと言った特徴のない、平均的な日本人顔のこの男が。 「……弓弦」  甘い吐息が耳に掛かってクラクラする。 「キスしていい?」  次の瞬間、俺の返事を待たずに、慧が俺の口を優しくふさいだ。 「……ふぁ」  うそ。なんで?  俺、慧とキスしてる。  キス自体は初めてじゃない。ファーストキスは中学生の頃で、初めてできた彼女と経験済みだ。 「……ん、ふっ」 「弓弦……」  男同士も初めてじゃない。正確に言えば俺の初キスの相手は親父で、物心がつかない頃は挨拶代わりにキスをしていた。 「んんっ……」  頭の中までとろけてしまいそうだ。てか、俺、なんで慧とキスしてんの?  キスしていいかと聞かれたが、なんでこうなったのかが理解できない。  慧もキスしたことがあるのかな。恋愛なんて興味なさそうなのに。  はっきり言って慧のキスはとても上手く、頭の芯から痺れるような心地に目眩がする。 「ちょ、待っ……、息、できな……」  息苦しさに思わず顔を背けたら、 「……あっ」  慧は俺の唇から自分の唇を離し、今度は俺の首筋に顔を埋めた。  慧、どうしてこんなことすんの?  もしかして慧も俺のこと……。 (――ちゅ、ちゅ)  仕切り直しするなら今しかない。今度こそ、ちゃんと告白しよう。 「……慧、なんでこんなことすんの?」  その前にどうしても聞いておきたいことがあり、俺のうなじに何度もキスしている慧に聞いてみた。その声は情けないほどとろけていて、ちょっと恥ずかしかったけど。 「え、だって俺たち恋人同士だろ?」  そしたら慧は、思い掛けないことを口にした。

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