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03
「お、お邪魔します……」
「ぶっ。なに緊張してんの」
慧の住んでいるのはオートロック式のマンションで、単身者向けの1LDKながら高級マンションと呼べるところだった。
「散らかってるけど適当に座って」
「わ……」
通されたリビングは一人暮らしには広すぎる広さで、ギターから手書きのスコア、大量のレコード盤で溢れ返っている。
「すごいね。アンプも二台ある」
音楽に関する物は全て慧がアルバイトして買ったもので、マンションの家賃と光熱費だけは親が出してくれているんだそうだ。
「慧の家ってお金持ち?」
「一応ね。父親も母親も医者で、兄貴は今年から研修医として父さんが開業した病院に勤めててさ」
いつだったか、大学まではちゃんとしたところを卒業するのを条件に、北海道での一人暮らしとバンド活動を許されたと言っていた。世間体を気にする親だからと慧は笑っていたが、どうやら親から見放されたわけではなさそうでホッとする。
「はい。コーヒー」
「ありがとう。もしかして、このマンションって防音完備?」
俺の目の前にホットコーヒーの入ったマグカップを置いて、
「そう。大音量はさすがにあれだけど、普通の音量ならアンプに繋いでも問題ないよ」
ドラムもさすがに無理だろうけどと笑いながら、慧は買ったばかりのギターを片手に俺の隣に座った。
「わ。これ親父のCD?」
ソファーに無造作に置かれたCDの中に親父のデビューアルバムを見つけてそう問い掛けると、
「そ。実はこっちも持ってたりして」
棚からデビュー記念に限定発売された、アナログのLPレコードを取り出した。
「すごいね。CDもドーナツ盤もちゃんと初回盤じゃん」
親父がデビューしたばかりの時は全くの無名で、初回盤は数千枚しか出回っていないはずだ。その中の一枚を慧が持ってくれているのが嬉しくて、俺はいつの間にか、
「あ……」
慧の鼻先数センチにまで身を乗り出していた。
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