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最終話

「のぼせた……つーか、腰が抜けて立てねぇよ」 「相変わらず梨人様は貧弱ですね」 「誰の所為だと思ってんだよ!」  ソファーとバスルームで何回もヤったことで、一人では歩けないくらい腰がヘロヘロになってしまった。  ベッドまでの移動も抱きかかえられながらで、我ながら情けなくなってくる。  そんな俺を貧弱呼ばわりしている神楽坂が、憎たらしくて仕方ない。 「お前、案外タフだよな」 「学生時代から常に運動はしてたので、体力には自信があります」  バスローブの胸元から覗く腹筋に視線を流すと、神楽坂がまた意地悪い笑みを浮かべる。 「なんだよ」 「いえ。私の裸姿など見慣れているはずなのに、バスローブ越しだとドキドキしますか?」  試すように距離を詰めると、わざとらしく顔を覗き込まれた。 「べ、別に……」 「それでは、明日の予定をキャンセルして部屋でゆっくりしましょう」 「キャンセル?!」 「梨人様も足腰立たないと思いますし、私のバスローブ姿もずっと見ていられますし、一石二鳥じゃないですか」 「いや、意味がわかんないんだけど……。それにプラン色々立ててたんだろ?」 「旅行はいつでも行けますし、こうなることも想定内でしたから。言ったでしょう? とてもお疲れになると」 「言ってた……な……」  想定内だったとしても、念の為に明日のプランを聞いたら、宮古島の星空ツアーやクルージングディナー、池間島のイキヅービーチにあるハート岩などなど……しっかりとロマンチックな予定を組んでいた。 「……あ、式場も一箇所しか回ってないじゃねぇか」 「お仕事の件はだいぶ情報が集まりましたので、問題ないかと」 「どういうことだよ」 「結婚するらしいので、沖縄の式場はだいたい教えていただきました」 「結婚? 誰が」 「祥太郎です」 「もしかして、帰りが遅かったのは……」 「はい。根掘り葉掘り聞きました。代わりに根掘り葉掘り聞かれましたが」 「ふーん」 「やっぱり、すぐにバレてたみたいですよ」  なんだか嫌な予感がする。  咳払いをして神楽坂から離れようと身体を起こそうとしたら、逆に引き戻された。 「どこに行くんですか、一人では歩けないでしょう?」 「うるせぇな。トイレだよ」 「まったく、だからバレバレなんですよ。祥太郎が言ってましたよ」 「なんて……」 「お前の主は、お前のことが大好きなんだなって……」 「だい……すき……」 「そうですよ。式場も、私たち用かと思ったらしいです」 「マジか……」  初対面にもダダ漏れなのかと後悔したところで今更遅い。  それでも神楽坂の嬉しそうな顔を見ていたら、まぁいいかと思った。 「いつか、俺たちも結婚式するか」 「え、いえ……私はそういう意味で言ったわけでは……」 「わかってるよ。いつになるかわからないけど、姫宮グループの次期社長としてもう少し成長したら、その時は盛大に式を挙げられたら……と、思ってる。おい、どうした?」 「梨人様がそこまでお考えになってるとは思いませんでしたので、びっくりしてしまって……」  突然の告白に神楽坂は心底びっくりしていたけど、すぐに幸せそうな顔になった。 「俺だって、ちゃんと考えてるんだよ。で、待っててくれるだろ?」 「もちろんです」 「そろそろ寝るか……」 「梨人様……」 「なんだ?」 「いつかまた旅行に行きましょう。今度は本当の新婚旅行として」 「そうだな……必ず行こう」  色んな経験をして、共に生きながら喜びや悲しみを分かち合い、これからも人生という名の旅を楽しみたい。  そう……俺たちが歩む人生は、まだ旅の途中にすぎないのだから。 END

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