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第5話

 部屋に戻り、明かりもつけずにベッドに横になる。  シャンパンやワインを飲んだ所為か、身体が火照り少しだけ視界がグラグラして気分は最悪だった。 「今日はもう寝るか……」  一人呟いたところで、神楽坂からの返事ももちろんない。  サイドテーブル上に置かれたデジタル時計に視線を移すと、もうすぐ二十一時になろうとしていた。 「あいつ、何時に帰って来るんだろう」  ゆっくりしてこいと言った手前、大人しく待つしかないけれど、いざ一人になると何をしていいか思いつかない。  上着だけでも脱がないと皺になると思い、重たい身体を起こして上着を脱ぎ、ソファーに放り投げる。  そのままネクタイを緩めながら冷蔵庫まで行き、ミネラルウォーターのペットボトルを取り出し蓋を開けると一気に飲み干した。  窓から差し込む月明かりで、かろうじて視界は確保できた。  きっとバルコニーに出たら星も綺麗なんだろうな。  そんなことを考えながらも、結局はローテーブル上に置かれたアロマキャンドルに火をつけるだけにとどまった。  次第に漂い出す薔薇の香りに少しずつ気持ちが落ち着き、ソファーに身体を預けていた俺は、いつの間にかそこで寝てしまった。 「梨人様……こんなところで寝ていたら風邪をひいてしまいますよ」  心地よい低い声が耳元で聞こえ、それが神楽坂の声だと認識した途端、どうしようもない気持ちになってしまった。  寂しかったような、恋しかったような……。  たった数時間一人でいただけなのにこんな気持ちになるなんて。 「……遅い」  それでも悟られないように強がって不満をもらすと、見透かしているかのように、後ろから抱きしめられた。 「重いって」 「申し訳ございません」 「お前、謝るのはそっちじゃないだろ」 「承知しております。遅くなって申し訳ございません」 「別にいいけどさ。久しぶりに会ったら積もる話もあるだろうからな」 「お気遣い嬉しかったです」  嬉しいと言われて少しだけ胸が痛い。  時々込み上げる感情はやっぱり嫉妬なのだろうか。 「いい加減どけよ」  あまり引きずるのもよくないと、気持ちに蓋をするように話を遮ると、心配そうに俺の顔を覗き込む神楽坂と目が合った。 「なんだよ」 「いえ、ご気分でも悪いのかと思いまして」  気分は最悪だ。そう喉のここまで出かかったのを飲み込み、遮るように背を向ける。  すると、無言のままの神楽坂が勢いまかせに俺の口を塞いできた。 「……んっ……ふっ」  荒く息を吐き出し薄く開いた唇の間から舌を差し込みと、次第にくちづけは激しさを増していく。  そんな荒々しい行為に、抑えていた熱が溢れ出し、いつの間にか俺は、応えるようにくちづけに夢中になっていった。  **  神楽坂の欲情に染まった眼差しに勝てるわけもなく、次第に俺たちはくちづけよりも深い行為へと落ちていった。  言いたいことも思うことも色々あるけど、くちづけを交わした途端にどうでもよくなる。相変わらず単純な性格だ。 「あっ……はぁっ……また……」 「またイきそうですか?」 「いい加減……っ……んっ……離せっ……」  何度かソファーで抱かれた後、甲斐甲斐しくバスルームまで運ばれ、シャワーを浴びている最中も行為は止まらない。 「……っ……ご機嫌は直りましたか?」  俺の言葉に耳を傾けるわけもなく、後ろからの突き上げはより一層激しさを増す。 「ん、はぁっ……あっ……別に……悪くっ……ない……」 「あの時……っ……連とお呼びになったのに……今は呼んでくださらないのですか」 「あの……ときっ……て」 「祥太郎に仰ってたじゃないですか、連をよろしく……と」  連と呼んだのは無意識だった。そんなことまでお見通しなのかと、顔だけ後ろに向けて睨むとニヤリとされた。 「……っ……ムカつくな、お前っ……」  そのまま、腰を掴んでいた片方の手が伸びてきて、顎を取られる。悪態を吐くことを封じるかのように、息継ぎの間に「早く」とせがまれた。  シャワーヘッドから降り注ぐ水音に混じるように、熱い吐息を絡ませながら素直にその名を口にする。 「……連……っ」  満足したような表情のまま再び唇を奪われると、ググッと更に奥へと腰を押し付けてきた。 「……こんな時は素直なのが、また……たまらない……です」 「う、うる……さい……っ……奥、やっ……だっ」 「気持ち……っ……いいのでしょう……」 「ん、あっ……そこっ……」  言葉とは裏腹に快感が増していくと腰が無意識に揺れてしまう。 「腰、揺れてますよ……梨人様は、奥も好きですからね……っ」  どこを擦れば気持ちいいのか、身体の隅々まで熟知しているだけあって、もう何度目かの限界が訪れる。 「もっと……っ……あ、んっ……突いて……連っ……好きっ……」 「私も……愛してます……っ……誰よりも……っ」  浅く擦っては最奥まで突き入れ、バスルーム内に響き渡るくらいに声をあげながら、次第に増す吐精感と共に愛する男を夢中で求めた。 「も、う……イきそう……っ……連っ」 「はい……っ……私も……っ」 「はぁ、んっ……出して……っ……なか、に……っ……あ、あっ……ああっ……イくっ……」 「……俺も……っ……だ、す……っ!」  限界まで上りつめ、お互いを確かめるかのように再びくちづけを交わすと、何度目かわからない欲を吐き出した。  **

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