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第1話
チャイムを鳴らして数秒。
鍵が開いて、オレ、|翔《しょう》を待っていたのは。
幼馴染の|涼真《りょうま》。
久しぶりに、会う。
あ、でも。
涼真が待っていたのは、「オレ」じゃなくて、ほんとは――――……。
◇ ◇ ◇ ◇
双子は神秘的。
そんなイメージがある人も居ると思う。
離れてても通じるとか。
片方が怪我したら、同じ所が痛むとか。
台詞がシンクロするとか。
でも。双子の兄であるオレは、高2の今迄、神秘的な物を感じた事は、無かった。
オレが思うに、赤ちゃんの時からずっと一緒で。離れず、経験する事も一緒で。当然、通じ合う物も多いし、話さなくても分かる事も多いし。
そりゃ一緒の経験して一緒に学んでるんだから、同じような言葉が浮かぶのだってとーぜん。その程度、だと思ってた。
オレ達は、二卵性なのに、すごく似ていた。
母は見分けがつくみたいだけど。父はたまに間違える。それ位似てる。
高校生になって、弟の|翼《つばさ》が髪を染めたから、ようやく、皆に間違われなくなった。まあそこそこ「イケメン双子」とか周りに言われるようなルックスではあるみたい。
……そんな事どうでもいい。
双子人生初めての神秘的な問題は、学校から帰ってきた時に、起きた。
今日は朝から頭が異様に痛くて。ヤバいなと思って、帰ってきた。
そしたら。玄関で、同じように、頭が痛いと言ってる翼と会った。
初めて双子の神秘を、2人で感じて、激痛の中、苦笑いしあって。
その瞬間。さらに激痛。翼もみたいだった。
2人で、痛った……と声を出して。よろけて、一緒に床に倒れた。
オレの上に、翼が居て。
あ、これ本当に、ヤバい。と思った瞬間。何もできずに気を失った。
そして。目覚めたら。
頭痛は綺麗さっぱり、無くなっていて。
でもなんだか、よく分からない違和感。
オレの下で倒れていた翼が起き上がったら――――……。
オレの目に映ってきたのは、どう見ても、オレ、で。
大混乱の中、慌てて洗面台の鏡に映ると、鏡の中のオレは、翼になっていた。
疑いようもなく。
オレ達、中身が入れ替わっていると、瞬時に2人共、判断した。
「……どーして? 何これ」
「あー……なんでだろうな……」
「何で翼、そんなに落ち着いてんの?」
「……正直、あんまり変化ないから」
あははっと笑う翼。
そりゃそうだけど。そういう問題じゃない。
すごく似てると思ってたけど、こうやって鏡を見ると、自分とは違う。
「あ、やば。ちょっとオレ行ってくる」
「翼、外、出ないで! 家にいてよ!!」
「だってオレ、涼真と約束あるんだよ」
「約束あるのは、翼だろ! オレの顔で涼真んとこ行ったら、何で?てなるってば!」
涼真は、オレ達双子の幼馴染。隣に住んでいて、いつも一緒に遊んでた。
だからなのか、母親と同じレベルでオレ達を判別できる、唯一の他人。
少なくとも、涼真はオレに、翼と呼び掛けた事は一度もない。
一度も、間違った事がないのは、涼真くらい。
まあ間違われる事が多いし、気になんてしてないけれど。
「あー……ちょっと待って。つか。これ面白いかも……」
「え? 何?」
「……ワクワクしてきた。どーにか動くかも……なあ」
「は?」
「オレの顔で、涼真んとこいってよ」
「お前、涼真と何の約束なの? こんな時に行かなきゃいけないような用事?」
「行けば分かる」
「オレ、しばらく涼真と会ってねえもん。分かんねえ話されても、無理だよ」
「話するっつーか……全部涼真に任せればいいから」
「任せる?」
「そ。あのさ」
「ん?」
「オレと涼真の関係、絶対壊さないでよ?」
「……??」
「分かった?」
「……どういう意味?」
「涼真の言う事聞いてれば、楽しく用事も終わるから」
「……全然分かんないんだけど」
昔は、オレと涼真の方が仲良しだったのに、涼真がオレから距離を置くようになって。そして、高校が離れて、全然遊ばなくなって。
ここ2カ月位かな。
ふと気付いたら、翼が涼真の所に通うようになってた。
オレは、高校に入ってから作った彼女と会うのに忙しくて。
涼真と昔はよく一緒に居たのになと、切ない気もするけれど。
成長って、そういう事だと納得するしかなかった。
いつまでも隣同士だからって、仲良く居られるとは限らない。
「今翔が入ってるのはオレの体だから! そこ、忘れんなよ! オレに何があっても、翔には関係ない」
「……全然意味、わかんない」
……なにひとつ、意味が分からない。
分からないオレがいけないのか?
「いいから。翔、行ってきて」
「もう、話あわなくてバレそうだったら今日は具合悪いって帰ってくるからな」
「だから。オレと涼真の、築いてきた関係、壊さないでよ。いい?」
「…………」
何だよそれ。
……お前ばっかり、涼真と仲良しみたいな。
…………なんかムカつくけど。
「翔、スマホ貸して」
「ん」
「暗証番号は? 誕生日の逆のまま?」
「うん」
翼は何を考えてるのか、オレのスマホから、自分のスマホに電話をかけた。自分で電話を受けて、その繋がった状態で、小さな鞄に翼のスマホを突っ込んだ。
「一応オレのスマホ持ってって」
「なに、このままつなげとくの?」
「そう。入ったら、涼真の机にこれ置いて」
「盗聴みたいでやなんだけど」
「――――……オレが本来する会話を、オレが聞くだけじゃん。それに今度涼真と会う時、話が合わないと、嫌だし」
「ああ……そういうことか……」
「だから、盗聴ではないでしょ?」
「……まあ、そうか。……非常事態だもんな。分かった。じゃあこのまま持ってく」
「ん。翔」
「うん?」
「――――……何があっても、オレは、全部納得済み」
「……は?」
「オレ涼真、大好きだからさ。絶対、大事にしてきて」
「――――……」
何それ。大好きって。
――――……大事にって。
……オレの方が。仲良かったのに。
――――……いつから、そんなに、仲良くなった訳。
ああ、なんか
むかつくな。
翼にこんな事思うの、珍しい。
――――……オレはため息をつきながら、翼と繋がったままのスマホが入った鞄を手に、隣の涼真の家に向かった。
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