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第3話

 呆然としたまま、ベッドで横向きに、倒れていると。  ジーンズだけ履いた涼真が、ペットボトルの水を、オレの目の前に置いた。 「翼、大丈夫? きつかったろ。ごめんな」 「…………」  …もう。何がなんだか分からない。  涼真と翼がこんな関係なのに。  オレ、受け入れてしまって。  涼真の事を、好きだと、思い知った。  ……それだけでも十分なのに。  最中、涼真が、何でか「翔」と呼んでて。  ……何かが、バレたのかと、気が気でない。  翼の中に入って、涼真に抱かれてる、オレ。  気持ち悪くない? 何なの、それって感じだよね。  オレ今、翼なのに。  翔と呼ばれて、めちゃくちゃ激しく抱かれた。  …………どういうこと? 「何で翼、今日、オレの名前呼んだの?」 「……え?」 「いつもあいつの名前呼ぶのに」 「……あいつの名前?」 「……好きな男の名前だろ」  好きな、男の名前、いつも呼ぶ?  涼真の名前じゃなく、好きな、男の、名前……?   何それ。  ああ、もう、意味、分かんない。もうだめだ。  オレは、涼真がベッドの上に置いてくれた服を手早く着た。 「帰る……!」 「え? 翼?」  オレは猛ダッシュで涼真の家を出て、翼の待ってる家に、帰った。 「翼!!!」 「うっわ、うるさ……」  目の前で、オレの顔、が、ものすごい嫌そうに、歪む。 「どーだった? 涼真とすんの」 「……っ翼のバカ!!!!」 「うるさいって……母さん、もうすぐ帰ってくるし、静かに話そうよ」  そんな風に言われたって、落ち着いてなんて話せない。 「すげえ、喘いでたじゃん、翔」 「……っお前の体だからだろっ」 「ああ。まあ。オレの体、男にされんの気持ち良くなってるからね。中身変わっても、体の感覚は引き継ぐんだなあ。新発見だな」 「……翼!!」  もう、感極まって、大粒の涙がボタボタ溢れてきた。 「――――……良かったでしょ、涼真とすんの」 「……っ」 「あのね。オレは、別の男が好きなの。涼真も、別の男が好きでさ」 「――――……」 「オレ達は――――……慰め合ってた訳」 「………………っ……」 「翔には分からないかも、だけど……。オレは、叶わない恋が辛くて、SNSで知り合った奴とホテルに行こうとしてたの。2か月位前。そこを涼真に見つかって、咎められて……」 「――――……」 「……オレは、涼真が好きな奴も知ってたから。お互い、慰め合う?て誘った。オレも知らない奴とやんのはやっぱ腰がひけてたし、涼真がいいならって」  そんなの。全部、全然何も、知らなかった。 「涼真は――――…… ほんとは、辛かったろうけどね」 「――――……」  翼だって。辛かったんじゃないの?  そう思うけど。混乱しすぎてて、何も言葉に出てこない。 「似てても、結局本命とは違うからね」  その言葉が指す意味。 「……涼真の……好きな、奴って……」 「分かるでしょ?」  ……さっき。  何度も……翔って、呼ばれた。  もう――――……分かった気がする。  でも、どう受け取ったらいいのか、分からない。  だったら何で。オレから離れたんだよ。  ――――……だからオレは、女の子と、付き合って……。 「さっき、涼真に、キスされた?」 「…………」  何を今さら、と思って、頷くと。  翼は、はは、と笑った。 「……オレとはキスしてないんだよ。オレ達2人共、体はいーけど、キスはやめとこっていう、よく分かんない感覚が合致してさ」 「――――……」 「なあ。何で今日、初キス、した? 翔っぽいって思ったの?」 「――――……? 翼?」  その時。翼の手に、オレのスマホがある事に気付いた。  そして、それが、通話中、な事も。  翼がスピーカーにした瞬間。 「――――……2人共、うちに来て」  涼真の声が、した。 「今行くから待ってて」  翼が、涼真にそう言って、スマホを切った。  ――――……眩暈がする。  そうだ。スマホ置いてきた。 「翔が帰るって言った後、1回切って、オレが電話したの。涼真がそれに出たから説明した。よく分からないけど、オレと翔の中身が入れ替わってる、今抱かれたのは、中身、翔だから、少し黙って聞いててって」  ――――…………もう。何、してくれてんの、翼……。 「……あのさあ。翔さ」 「――――……」 「涼真の事、好きなんじゃないの? いくらなんだって、黙って抱かれるとか、普通ないよね」 「――――……」 「オレが納得済みだからって散々言ったけどさ。 途中で逃げてくるかと思ったけど、最後まで受け入れてさ。 いくら慣れてるオレの体だからって、ありえない。だって中身は翔なんだから」 「――――……」 「認めろよ。――――……涼真、受け入れてやんなよ。あいつ、ほんとにお前が好きだから」 「……っお前と、してた、んだろ」 「あれは、オレの為が一番で――――…… お前の顔に似てるってのが大きい。つか、翔だって女とやったんだろ。涼真のこと好きなくせに」 「……っ……」 「涼真はお前を好きだって気付いて、端から諦めて女にいって……その後、顔が似てるオレと、慰め合っただけ」 「………………っ」 「――――……オレさ、そろそろやめようと思ってたんだよ。涼真んとこ行くって言うと、翔の機嫌がすごい悪いし、妬いてんのかなって思い始めてて。どうにかここ2人、くっつかせられねーかなって思ってた」 「――――……」 「オレも、涼真とやっても満たされないって分かってきてたし。けど、絶対翔は素直にならないだろうし、オレらの事ばらしたら終わりだろうし、どうしたらいいんだろうって考えてたら、今日これでさ。荒療治に出てみた訳」 「――――……」 「途中で逃げてくると思ってたら、最後までさせるとか。やっぱり翔は、涼真が好きなんだなって、確信したんだけど。 違うの?」 「…………っ……しらないよ……もう、全部意味わかんない……」  なんかもう、いっぱいいっぱいで。  部屋を駆け出して、階段を降りようとした所で、翼に、手を取られた。 「待てよ翔、逃げんなよっ」 「っ嫌、だ!!」 「涼真んとこに」 「行かない!! お前の姿で行ったって混乱す………」  ふら、と階段の一番上で、眩暈がして。 「しょ……」  翼が、咄嗟に、オレの手を掴んで。  それでも引き止める事は不可能で。 「つばさっ……!」  お互い相手を、抱き締め合うみたいに、絡んで。  そのまま――――……落ちた。  次に目が覚めた時は、白い天井と壁の、病院で。  隣には、少し早く目が覚めていたらしい、翼が寝ていた。  オレ達は、ちゃんと、元の体に、戻っていた。  あの時、ちょうど帰ってきた母さんがオレ達が落ちた音を聞いて、鍵を開けて、階段の下に落ちてるオレ達を見つけた。すぐに救急車を呼んだらしい。涼真も病院に来てずっと付き添ってくれてたらしい。  オレ達は、1週間、目を覚まさなかったみたいで。  ちょうど同じ日に目が覚めるなんてと、母さんが笑いながら泣いていた。  落ち着いてから、母さんは、色んな人に連絡してくると、消えた。  そのまま、また眠って、目が覚めたら。  翼の隣には、知らない男が座ってた。  翼の態度からすると。多分、あれが好きな男。かな……。    病院なのに。走ってくる足音がする。  ドアが開いて。涼真が、現れた。オレと翼を見て、ほっとしたように息を付いて。 「――――……翔」  オレのベッドの脇の椅子に座って。  涼真が、オレの手を取った。  ああ。……オレ。  やっぱり。涼真が好き、だな……。  その手を、握り返すと。 涼真の涙目と見つめあう。  話したい事、いっぱいあるけど。  2人きりになったら。  好きだって。  言おう。  ずっと、好きだった、って。 了

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