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第1話
中世の西洋に、ラティーナという国があった。南部に位置し、海沿いに立地しているだけでなく山も聳(そび)える自然豊かな国だ。
海があることから、この国の主産業は漁業である。
ラティーナ国はユン王が治めていて、太平の世を築いていた。
ユン王には子どもが二人いる。九歳になる王子のアンドレイとその妹で七歳のユーリだ。
アンドレイは子どもながらに美貌を持ち、ブロンドの髪を伸ばしているため中性的な雰囲気も漂わせている。
既に、アンドレイに対する未来の王となる教育は始まっていて、勝気なところのある彼も自身の立場を弁えて日々勉強に励んでいた。
妹のユーリは、王女としての教育を受けつつも伸びやかに育っている。
二人の母親である王妃は、とても優しい人で、子どもたちのこともいつも気にかけ、愛情深く接してきた。
それもあり、王家の二人の子どもたちはこれまで幸せに育ってきた。
アンドレイは、教育係のリカルドから日々王になるための教育を受けている。
基本的な学問だけでなく、帝王学を既に学び始めているのだ。
リカルドは父王からの信頼も篤い学者であり、父王にも何か事が起こった時には助言をしたりもしているキレ者だ。
普段は、アンドレイはリカルドの言うことを良く聞き慕っている。
しかし、一つだけ欠点がアンドレイにはあった。
「王子様。お部屋のお片付けくらいなさってください。侍女が王子様のお部屋が汚いと嘆いておりましたよ」
アンドレイは、部屋を片付けることが苦手だった。室内は綺麗にされてはいるものの、それは侍女が掃除をしてくれているからだ。
「別に、侍女たちが綺麗にしてくれるのだから、良いではないか」
アンドレイは何てことないように開き直った。
「その様なことではいけません。ずっと言っているではないですか。部屋の状態は、その人の内面を指していると」
「そうだったか?」
「はい。部屋を綺麗にしていれば、心も落ち着き良い案も浮かぶというものです。王となると、いつでも心を落ち着かせておかなければいけないのですよ」
「そうかもな」
「王とおなりになった時に、お部屋を散らかしているようでは、民にも恥ずかしいとは思いませぬか?」
そう言われると、リカルドには逆らえなかった。
「分かった。気を付けるよ」
その後、しばらくは自身で片付けるようにするが、いつしかまた元のように戻ってしまう。
このことの繰り返しで、アンドレイに染み付いた“片付けられない”という性分は、なかなか治りそうもない。
ついには父王にまで心配されて叱られ、よりこまめにリカルドにチェックされるようになった。
アンドレイとしては、片付けようと思ってもどうすれば良いか途方に暮れてしまうのだ。
面倒になってしまうこともあるだろう。
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