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第68話
「申し訳ございませんが、少々耐えてください。もうすぐですので」
「それはそうなのだが……」
アンドレイは顔を赤らめた。
「そなたにこうされていると、心臓が落ち着かない……」
「おや。ずっと私に愛され続けてきた方が、これしきのことに心を動かされるのですか?」
ルイはいじわるを言いながら見下ろしてきた。その目と合ってしまうと、非常に恥ずかしくてたまらない。咄嗟に、アンドレイは目を背けた。
「す、数日振りに会ったから少し緊張しただけだ。それに、この様なことをされたことなど、なかったしな」
「そうですね。それでは、これからは毎日この方法で寝所へとお連れしましょうか」
ルイがニヤリと笑んだ。何かを企んでいるに違いない。
「馬鹿。何を企んでおるのだ」
アンドレイはルイを正視できず、横を見つめながら悪態をついた。真っ赤な顔で。
「いいえ、何も。私に企んでいることなどございませんよ」
そう言いながら、ルイはアンドレイの髪に口付けをした。
歩いているうちに、ルイはクラウド王の城の外に出てきた。
「さぁ、帰りましょう。輿をご用意しておりますので、王様はそちらにお乗りください」
「あ、あぁ。分かった」
アンドレイたちラティーナ国の一行は、自国を目指すこととなった。クラウド王のことは、何か言ってきたり罠を仕掛けてきたりするかもしれない。そうなったら、徹底して迎え撃つしかないだろう。アンドレイも、もう二度と攫(さら)われるなど同じヘマはしないと心に固く誓った。
半日をかけ、アンドレイ一行は無事に自国の城へと帰ってくることができた。ウルバヌスを午前中に出発したのだが、既に日が暮れかけている。
「王様、到着いたしました」
ルイが輿の御簾(みす)を開けた。御簾をアンドレイの断りなく開けられるのは、ルイのみに許された特権だ。
「あぁ。分かった」
アンドレイが頷くと、ルイは手を差し出してくる。アンドレイはその手を取り、輿から降りた。
その様子が何とも優雅で、周りの家臣や兵たちはアンドレイらに注目した。そんなことに構うことなく、アンドレイとルイは城の中に消えていった。ルイの手がアンドレイを支えている。
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