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第12話

力いっぱい引き剥がした身体を今度は俺が壁際に押し付けた。 笠根は為すがままで抵抗らしい抵抗は見せない。 「…………何とか言えよ」 「…………はは、鈍」 「はぁ?」 「本当、松ちゃん並みに鈍すぎ。何でそんな残酷なこと言うかな」 「何だよ、残酷って……俺は、そんな」 「何で?だってこんな事されて分からないわけないよね?俺が萩のこと好きだってさ」 「…………」 分からないわけない。ずっと一緒に居たんだ。これが本気か冗談かぐらいは分かる。そのぐらいは、分かる。 「いつ、から……?」 「ずっと」 「ずっとって……」 「昔から、ずっと。いつなんて覚えてない。きっと初めて会った時からずっと好きだった。いつだって、何してたって萩は可愛かった」 笠根の身体を押さえつけていた手がやんわりと外されて、そこに見えない壁が出来たように思えた。 あ……何だろ、この気持ち。何か遠く感じる……。 「ごめんね、あと一年もなかったのに。最後まで良い幼馴染みでいられなくて。黒りん達見てたら欲が出ちゃった」 やっと見えた笠根の顔はいつもと同じようにヘラヘラと笑っていて、それがとても悲しいものに思えて。俺は何と答えればいいんだろう……。 そんな事を考えていたら笠根の後ろから聞き覚えのある金属音が鳴って、静かに個室のドアが開いた。 「先、戻ってて」 「え…………」 「俺はもうちょっと、一人で楽しんでから戻るよ。萩は先に戻ってて」 そう言った笠根はもう俺を見ていなくて。 俺はそれが堪らなく寂しくて。 「………………やだ」 「……萩、俺はね」 「嫌だったら嫌だ。だから勝手に終わらせようとすんなって言ってんだろ」 「………………」 「俺はその、確かに笠根の事そう言う対象として見たことなかったし……笠根の気持ちとか気付いてなかったけど……。ちゃんと考えるから、だから最後って言うなよ。そんな急に離れてこうとするなよ」 浴衣の袖口を引っ張って、ドアを支えていた笠根の手を外す。 「……少しだけ時間欲しい。考える時間……そのぐらいいいだろ?」 「…………いいの?萩は自分の事好きな男が今まで通り近くに居ても、いいの?」 「す、好きって言われるより最後って言われる方がずっとずっと嫌なんだよ。だから……離れんな」 いっぱいいっぱいなんだ、これで。 今はこうやって引き止めるだけで。 曖昧な答えで笠根には悪いと思うけれど。 だってもう顔が焼けるように熱い。 「…………おい、何か言えって――うわっ!?ちょ、何!?いきなり抱きつくな!てか苦しい!」 「――萩、好き」 「わ、分かったって……そんな耳元で言うなよ……」 「何回でも言いたい。好き、大好き」 「うぅ…………てか、何か当たって」 「あ、気付いちゃった?萩のせいでまた勃っちゃった」 「…………さ、先戻る!」 「だーめ、離れないでって萩が言ったんだよ?言ったことの責任は取ろうね」 「そう言う意味じゃ――あ、ばか!俺のは触んな……!」 ――こうして俺達の研修旅行は幕を閉じたわけだが。 「なあ松原、お前ら研修旅行から更に距離近くなってないか?」 昼休み、いつもの屋上でパンを食らいながらイチャつく友人二人に言葉を投げた。 「いや萩くんよ、それブーメランだから」 松原の指差す先は俺の膝の上。見下ろした先では気持ち良さそうに昼寝をする笠根の顔。 あの旅行以降、笠根は何か吹っ切れたようにやたらベタベタしてくるようになった。我慢してたけどもう必要なくなったし、と本人の言い分。 「――で、結局の所付き合ったのか?」 いつだったか黒島にした質問を本人からそのまま返されるとは。嫌な笑顔だな、本当。 「ほ、保留中……」 俺たち幼馴染みの諸事情は、日々緩やかに変化している……らしい。 【END】

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