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第六章・9

 デスクに体を投げ出し動けない実由を、秀孝は優しく撫でていた。 「んぅ。はぁ、はぁ……」 「すごく悦かったよ、実由」  そして、服を整えることを助け、佑佳にこぼれた実由の精も拭き上げた。 「ごめんなさい、秀孝さん」 「いいんだ。歩けるか?」  ふらつく実由に肩を貸し、どこまでも甘い秀孝だ。  その毒に、実由はすっかり参ってしまった。 「何で、そんなに優しいんですか?」 「嫌だな。私たちはもう、恋人同士なんだよ? 優しくするのが当然だろう?」  それに、と秀孝は笑顔で言った。 「もう、敬語は使わなくってもいいよ。もっと気軽に話して欲しいな」 「はい。じゃなくって、……うん」  優しい。  優しい、秀孝さん。 (僕、ホントにこの人の恋人に?)  夢じゃないかな。  秀孝は、実由をアパートまで送ってくれた。  その紳士的な行動も、甘い毒だった。  玄関でさよならを言い、実由はベッドに体を投げ出した。 「僕。僕、幸せになります!」  なれるはず。  幸せに。 「秀孝さん……」  そのまま、とろとろと眠ってしまった。  健斗ではなく、秀孝の夢を見た。

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