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第十一章・4

「何か、あったの?」 「え!? な、なんで!?」  実由の顔を見たとたん、司は心配そうにのぞき込んできた。 「何か、目が赤いから。もしかして、泣いた?」 「えっと。それは……」  バスルームでさんざん泣いたはずなのに、また涙があふれてくる。  そんな実由を、司はそっと抱いた。 「言いたくないなら、言わなくてもいいよ」 「う、うぁ。うぅう……」  肩を抱き、部屋の奥へ進む司は、実由の心の内を読めないでいた。 (何があったんだ?)  彼が泣くのは、健斗がらみのことしかないと思うが。  そんな思いの司だったので、実由の口から、秀孝と別れた、と聞いた時には、驚いた。 「これから、って時だったのに?」 「秀孝さんはね、やっぱり淳さんのことが好きなんだよ。大好きなんだよ」 「泣くほど、好きだったんだ。秀孝くんのこと」 「そんなはずじゃない。そうじゃないのに、涙が止まらないんだ」  司は、実由の瞼にキスをした。

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