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第1話

 始まりはそう、何の変哲もない俺の台詞からだったと思う。 「あ! そこの君新入生? サークルとかどう、興味ない?」 「サークル……ですか?」 「そうそう。ボランティアでな、社会福祉とかしてるんだ。あっ、決して怪しいもんじゃないからな!? 落ち着いたらぜひ見学しに来てくれよ」 「はぁ……」  あんまり興味ないのか、俺がウザがられたのかはわからないけど、その子は一礼してすぐに行ってしまった。そして、また違うサークルに勧誘されていた。  ほぼ一瞬だったけど、中性的な顔立ちをしていたなぁなんて記憶に残った。あれじゃ本人の意思とは別に学生の中でも目立つかも。  大学生のサークルなんてもんは、当たり前のように新歓コンパがある訳で。  俺が声をかけた一年(たぶん断れなかったんだろうな)の子も、参加してくれていた。ていうかそもそも入ってくれたのか、それが驚きだった。  まあ、他は体育会系も多いし、線が細くて見るからに体力のなさそうな彼にはできそうもないと思ったのかもしれない。  一年なので当然、酒は飲めないしこちらも勧めない。ジンジャエールをちびちび飲んでいるその子に、最初に声をかけた者として隣に座ってみる。 「よ、一年。入ってくれたんだな」 「あ……先輩、あの時の。その節は……」 「いいっていいって。今日は無礼講。あ、俺は三年で経営学部の朝日奈晴彦(あさひなはるひこ)ってもんだ。学内でも、サークルでも、勉強でも、わからないことがあったら何でも聞いてくれよな」 「晴彦先輩……って言うんですね」 「ん? うん。普通の名前だろ?」 「いえ……とても明るくて活発なイメージで……先輩に合った、素敵なお名前だと思います」 「そ、そうかぁ? 名前褒められたのなんて初めてだけど……でも嫌な気はしないぜ。ありがとな。そういうお前は……悪い、まだ聞いてなかったっけ」 「あっ、はい。文学部一年の愛沢彼方(あいざわかなた)って言います。彼方は、遠く、とかの意味の……」 「へええ、可愛いじゃん」  何の気なしに言った言葉に、彼方が赤面した。 「ご、ごごごめん! 俺、変なこと言った!? そりゃそうだよな、男に可愛いとか……」 「い、いえっ! 僕も名前を褒められたことなくて。それで……。だからその、う、嬉しいです……」  俯いてしまった彼方だけれど、にこやかに微笑む様子からして、本当に嫌がっている訳ではないのだと察した。 「にしても、社会福祉やってます! って言うと、就活では結構食い付きが良かったりすんだよ。いや、もちろんそれが目当てじゃないけどな? 彼方もできたら続けたら良いと思うぜ」 「あはは。それで、就活の首尾はどうなんですか?」 「あー……まあ、一応いろんな業種を受けてはいるんだけどな、食い付きが良いだけ……ってのもあってなぁ……ははは」 「それじゃ意味ないじゃないですかっ」  喋ってみると、彼方はすごく可愛がり甲斐がある後輩っていう感じの子だった。  俺は酒も肴も入ってるから絡みに絡むけど、彼方はそんな俺の与太話も真面目に聞いてくれて、コミュケーション能力も良い方だ。  けど、途中でトイレに抜けて同級生と小便をしていると、同級生は「あいつ、すげえ絡みづらい」「よくあいつと喋れてるよな」なんて不満を口にする。  そう思うなら、お前が単に彼方と相性が合わないだけじゃないか?  それか、彼方が俺をめちゃくちゃ気に入ってくれてるのか……。  いや、それはないか。……ないよな? 俺なんかマジで凡人にもほどがある人間にさ。  それくらいに俺と彼方は、連絡先の交換はもちろん、大学内でも会っては話をしたり、学食を共にしたりするくらい仲良くなっていった。

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