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第2話

 正直、彼が女の子だったらな……なんてたまに考えるくらい、どストライクの性格だった。  男の俺から見ても整った顔付きで、今時居ないんじゃないかってくらい家庭的で大人しくて、言動もお淑やかな大和撫子的な部分があって、ちょっと他人の意見に流されやすいところもあるけど、そういうのがまた守ってやりたくなって。とにかく良い子だな……という印象ばかりだ。  俺ってホモだっけ。一人でこんなこと考えて悶々としてるなんて心底気持ち悪いな。と、呆れたりもした。  だけど彼方はそんな俺でもいつも笑顔で慕ってくれるから、俺はついつい甘えてしまう。 「晴彦さん……」  それはテラスで勉強を見てやっている時の、ふとした瞬間だった。 「……き、です」 「ん?」 「好きですっ……僕、晴彦さんが好きです」  あまりの衝撃にペンを落としてしまった。だってそれは、人としての好きという感情ではなく、男としての性愛の欲求だと声音から感じたから。 「す……お、お前本気か!? 俺なんかからかったって面白くねぇぞ! それに、俺はノンケで……」 「は、はい。もちろんわかってます。僕の自分勝手な気持ちだって。でももう、この関係が壊れても……伝えずにはいられなかったんです。毎日あなたのことを考えて、変になっちゃいそうだったから……」  顔を赤くする彼方は今にも泣きそうだ。それくらい俺のことを考えていてくれたのか……?  言葉に詰まって、震える様子はただごとじゃない。 「それに……僕、ただの男じゃ、ないんですよ」  今まで聞いたこともない、淫靡な……男を誘うような声が耳元で囁かれる。 「僕、ふたなりなんです」 「ふ、ふた……?」 「り、両性具有と言いますか……その、どっちも……あるんです」 「どっちも……って……?」  言葉の意味はわかる。でも脳が処理しきれない。  いきなり可愛がっていた後輩に告白されて、しかも俗に言うふたなり……とか……。 「……触ったり、見たりすれば、わかるかも……」  そう言って彼方が腕を取って密着してくる。指を絡め、だんだんと彼の股間へ誘導されそうになり……。 「そ、そ、それは駄目だ! 彼方、お前っ、マジで俺のこと好きならそういう自分を傷付けるようなことはやめろ!」  ただ拒否されるだけだと思っていたのだろうか。彼方は目をぱちくりとさせた。 「え……? で、でも……他の男の子は、僕がそうだってわかると、すぐ触ってきて……」 「俺をそんな非常識な奴らと一緒にするな!」  さすがの俺も怒らざるを得なかった。そんな風にチャラい奴に見えてるのか? だったらショックすぎる。  俺は好きな子の承諾を得るまで肌に触れたりなんてしない。もちろん、手を握るのも、キスさえ。どんなに欲望が爆発しそうになってもだ。  ぶっちゃけ友人らからは「もっと遊んでると思ってた」と言われるくらいは誠実な方だと自負してる。 「俺はっ……俺は彼方が男でも女でも、関係ねぇよ。好きだよ……俺も彼方が好きだ……だから簡単に触ったりとかしない」  格好付けたつもりだったのに、彼方はさらに困り顔で、 「でもっ……でも……好きなのに触らせないのはおかしいんだって。男はみんな……その……あそこを触りたいものだって……」  なんだろう。過去に変な常識でも植え付けられたのだろうか。  それなら正さなくては……俺たちが相思相愛で、その、もしちゃんと恋人になるって言うんなら、そこははっきりさせなくてはいけない。 「だからそれは……わ、わかった。わかったから……この話は二人きりになれる場所でしよう? な?」

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