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【SIDE:M】
それは、本当に偶然だった。
「佐藤くん」
「あっ、理人 さん。仕事終わりました?」
「うん、お待たせ」
定時の六時を三分過ぎたところで、パソコンを閉じた。
ダイニングテーブルからリビングへと移動し、なにやら熱心にタブレットの画面と睨めっこしている佐藤くんに声をかける。
背中から抱きつくと、ほっぺをスリスリしてくれた。
気持ちいい。
「理人さん、お腹空いたでしょ? すぐに夕飯作りますね。今日はネギトロ丼なので、時間かからないと思います」
「美味しそうだな、俺も手伝う。けど、その前に……散歩、行かないか?」
「散歩?」
「最近、暗くなるのが早くなっただろ。だから、その……手、繋いで歩いてもいいかな……って」
佐藤くんは、ポカンと口を開けて俺を見た。
その顔には「いつもなら絶対食欲を優先するのに」と書かれている(気がする)
でも、しょうがないだろ。
最近デートらしいデートなんて全然できてないんだ。
だからたまにはイチャイチャしたい。
「いいですね、行きましょう。ちょっとトイレだけ行ってきます」
佐藤くんは、掠めるだけのキスを落として、部屋を出て行った。
ほんと、こう言うところは相変わらずぬかりない。
顔が熱いことには気づかないフリをして、佐藤くんの代わりにソファに座って待つことにする。
残っていた佐藤くんの気配が、ほんのりと俺のおしりを温めてきた。
たったそれだけのことなのにうっかり変な気分になってきて、俺は慌てて立ち上がった。
佐藤くんに気づかれたら確実に散歩は中止になるし、なんなら夕飯だって食いっぱぐれる可能性もある。
まあ、そうなったらなったで俺は……って、おい!
煩悩よ、なにを言わせ――あ。
「タブレットの電源、つけっぱなしじゃないか」
やれやれ、と無理やり声に出して気を紛らわせながら、佐藤くんのタブレットの画面を閉じ……ようとしたら、どこかに触れてしまったのか、薄暗かった画面が一気に明るくなった。
決して見るつもりなんてなかったのに丸見えになってしまったのは不可抗力で、さらに覗き込んでしまったのも、言わば光に引き寄せられる虫の条件反射のようなもので、だから……
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「……えっ?」
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