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【SIDE:L】

 理人さんの様子が、おかしい。 「どうですか?」 「ん、美味しい!」  理人さんは、レンゲに山盛りにしたネギトロ丼を、大口を開けて一気に頬張った。  ギュッと目を瞑って「んー!」と喜びを露わにしてから、膨らんだ頰を一生懸命もぐもぐさせる。 「んまい! たれふぁふぁいほう!」 「プッ、それならよかった」  いつもはさしみ醤油をかけるだけだけど、今夜は生醤油にみりんやだしを加えて、ちょっとまろやかにしてみた。  そのアレンジが理人さんの好きな味にドンピシャだったみたいで、これは三杯は確実だな……と思ったし、そのために多めにご飯炊いたし、下手したらメインのネギトロがなくなっても、タレだけご飯にぶっかけて食べたりするんじゃないかなんて心配もしたけど……。 「ごちそうさまでした」 「理人さん、大丈夫?」 「え!? な、なな、なにが!?」 「おかわりしようとしないから。散歩して疲れちゃった?」 「あー……いや、そんなことない。けど……」 「けど?」 「あー……ちょっと、その……色々、あって……」 「色々って?」 「ん、んー……」  どうしたんだろう。  なんだか、ものすごく煮え切らない。 「理人さん?」 「あー……」 「なにか、あったんですか……?」 「んー……その、俺、ってさ……」 「はい」 「そ、その……」 「はい……?」 「や、やっぱりなんでもない! お風呂入ってくる!」  え? 「いやでも、ちゃんとご飯消化してからの方がいいですよ。それに、まだお湯溜めてない……」 「なら溜めながら入る!」 「じゃあ、俺も一緒に入ります」 「だ、だめだ!」  は? 「……なんで?」 「あー……そ、そうだ! きょ、今日は一人で入りたい気分なんだよ! どうしても! 絶対!」 「はあ……?」  ダダダダダッ……と乱雑な足音を立てながら、理人さんは本当に風呂場に駆け込んでしまった。  一体なんなんだ。  ……怪しい。  怪しすぎる!  それに、理人さんはわかってない。 「だから、絶対! 入ってくるなよ? 絶対だからな!」  ……なんて言われたら、問答無用で突撃してやりたくなることを。

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