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金木犀③
あっという間に食事を平らげた三人は、淹れたての緑茶を手にしてホッと一息つく。清虎が湯呑に口を付けた瞬間「熱ッ」と顔を歪ませたので、猫舌だと知った陸は意外そうな顔をした。
「清虎は大人っぽいから、熱いお茶も平気だと思ってた。コーヒーもブラックで飲めそうだし」
「そんなん陸の勝手な思い込みやろ。なんやねん、ブラックで飲めそうて。コーヒー自体そない飲まんわ」
両手で湯呑を持ち、ふーふー息を吹きかける清虎が案外可愛くて、陸は思わず目を細めた。
そう言えば、清虎はどこか猫に似ている。一見クールでミステリアスだが、実際は愛嬌があって人懐っこい。
それなら哲治は何だろう。そう思いながら隣に座る哲治の横顔を眺めた。
キリリと整った目鼻立ちや言動から連想すると、賢くて頼もしい警察犬がしっくりくる。
「何? そんな顔して、また何か考えてたでしょ」
陸の視線に気づいた哲治が口元を緩めた。穏やかに流れる空気が心地よくて、陸は嬉しそうにふにゃっと笑う。
「うん。清虎は猫に似ていて、哲治は警察犬みたいだなって考えてた」
「あはは。ホンマやな、哲治はシェパードみたいや。陸は、そうやなぁ。ハムスターってとこかな」
「ああ、確かに」
清虎の言葉に哲治が吹き出す。陸は頬を膨らませながら、不満そうに二人を見た。
「ハムスター? もっと虎とか豹とか強そうなのがいい」
「ほら、今まさにハムスターみたいやで。頬っぺた膨らまして可愛いやん」
清虎がテーブルに身を乗り出して、陸の顔を楽しそうにのぞき込む。急に人形のように端正な顔が近づいて、陸は思わず息を止めた。照れくさくて顔を逸らしたいのに、清虎の大きな黒目に思わず魅入ってしまう。
「もう九時半過ぎたな。二人とも、時間大丈夫?」
哲治の静かな声で我に返り、陸は金縛りが解けたように清虎から目線を外した。止めていた息をぷはっと吐き出す。
「ああ、俺もう帰らな。まだ稽古残ってんねん。めっちゃ楽しかったのに、残念や」
「転校する前に、また来ようよ」
「……せやな」
清虎が静かにほほ笑んだ。
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