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*第八話* 全部、自転車の揺れのせい
清虎がハッとして足を止める。
「先に行ってごめん。でも……」
口ごもった清虎が、陸の背後を気にするような仕草をした。陸もつられて振り返ったが、哲治はもう家に入ってしまったらしく、そこには誰の姿もない。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
清虎はホッとしたような表情を見せ、再び歩き出した。少し速足なのは、まだ稽古が残っていて気が焦っているせいかもしれない。呼び止めて時間を取らせてしまったことが、急に申し訳なくなる。
「清虎、二人乗りして帰ろうか。早く戻った方がいいんでしょ? この時間ならほとんど人通りないから、二人乗りしても見つかんないよ。後ろに乗って」
「え、陸は大丈夫なん? そんなら俺が漕ごうか」
「俺、そんなにか弱くないってば。いいから、ほら」
清虎は一瞬だけ躊躇したようだったが、大人しく自転車の荷台にまたがった。遠慮がちに、陸の腰に清虎の手が置かれる。ぞわっとして反射的に背筋を反らせてしまった陸は、それを誤魔化すように力を込めてペダルを踏みこんだ。
ガクンと後ろに引っ張られるように清虎の体が揺れ、腰に添えられた手に力が入る。
「大丈夫? 落ちないでね」
「うん。へーき」
耳のすぐ後ろで清虎の声がして、全身に鳥肌が立った。清虎の指先から腰に熱が伝わり、後頭部に僅かに吐息がかかる。
清虎を独り占めしているんだと自覚して、思わず身震いした。
遠回りしちゃおうかな。
そんな邪な考えも浮かんだが、すぐに打ち消すように首を振る。そうして、大事なことを思い出した。
「あ、清虎に渡すプリントがあったんだ。ジーパンのポケットに入ってるから取ってくれる?」
「後ろのポケット?」
「うん」
片手を腰に添えるだけでは心許なかったのか、清虎は陸の腹の方にまで腕を回してしっかり掴まると、空いた手でポケットから手紙を取り出した。更に体が密着し、陸の鼓動は早くなる。
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