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*第二十四話* 嫉妬くらいさせてよ
東の空が白み始める頃、見覚えのない部屋で陸は目を覚ました。頭がぼんやりしていて、一瞬自分がどこにいるのかわからなくなる。
すぐ横から穏やかな呼吸が聞こえ、首を動かしそちらを見た。
少しあどけない、無防備な寝顔がそこにあり、「ああ、そうだった」とようやく理解が追い付く。
いつ眠りについたのか、全く記憶になかった。もしかしたら眠ったのではなく、気絶したと言った方が正しいのかもしれない。
少しの間、清虎の寝顔に見惚れ、幸福を噛みしめる。
清虎を起さないよう、そろそろとベッドを抜け出し、脱ぎ散らかした服に袖を通した。少し動くだけで、体のあちこちが鈍く痛む。
「ホントに加減してくれなかったな」
苦笑いしながら清虎の頬を撫で、窓の外に目をやった。朝の空気に包まれた通りを、新聞配達のバイクが走り去っていく。
「一度帰ってスーツに着替えなきゃ」
うんざりしながら、もう一度清虎に視線を戻した。ただでさえ憂鬱な月曜日だが、清虎のそばにいると離れ難くて、なおさら重い腰を上げられない。
スヤスヤ寝息を立てる清虎は、いくら眺めていても飽きる気がしなかった。長い睫毛が白磁のようになめらかな肌に影を落とし、桜貝色の唇は緩く結ばれている。金色の髪はまるで上等な絹織物だ。もし自分に絵心があったなら、スケッチブックを何冊も使って描き留めていただろう。
前髪を少し横に流し、清虎の額に軽くキスをする。
「行ってくるね」
小声で告げて玄関で靴を履き始めたところで「陸?」と背後から呼びかけられた。目を擦りながら起き上がった清虎は、ふらふらしながら陸に抱きつく。
「ごめん、起しちゃった」
「むしろ起こしてぇな。黙って行かんといて。目ぇ覚めた時に陸がおらんで俺一人きりなんて、泣いてまうやろ」
「ごめん、ごめん。仕事行ってくるね。今日の夜、また会えるかな」
清虎は唇を噛んで、少し考え込むような仕草をした。言い難そうに「すまん」と口を開く。
「昨日も稽古サボってしもたから、今日は行かんと。ごめんなぁ」
「ううん、仕方ないよ。じゃあ、会える時連絡して」
「うん、わかった。……なぁ陸。仕事、楽しい?」
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