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嫉妬くらいさせてよ②
唐突な質問に、陸は首を傾げながら頷いた。
「え? うん、楽しいよ。やっと色々任されて、成果が実感できるようになったし」
「……そか。凄いなぁ。ほな、仕事頑張ってな」
「清虎もね」
玄関先で清虎に見送られ、陸は部屋を後にする。
――このままずっと一緒にいられたらいいのに。
だらだら昼まで寝て、腹が減ったら二人で何か作って食べて。観たかった映画やアニメを、あれこれ言いながら時間も気にせず片っ端から観る。そうしているうち夜が来て、眠くなったら抱き合って眠る。そんな、何もしない無駄で贅沢で幸福な時間を、清虎と一緒に過ごしてみたい。
そんな妄想をしたら、ますます足取りは重くなった。
早朝の冴えた空気はなんだか物悲しくて、つい感傷的になってしまう。
先ほど新聞配達のバイクが通り過ぎた道を歩きながら、ふとマンションを振り返った。窓枠にだらりともたれ、こちらを見ている清虎の姿を見つけて、驚きながら陸は手を振る。
両腕に顎を乗せてぼんやりしていた清虎は、陸に気付くと嬉しそうに手を振り返した。
清虎も同じように、まだ一緒にいたいと思ってくれていたのだろうか。そう言えばこんなことが中学の頃もあったなと、陸は懐かしい気持ちで何度も清虎を振り返る。
二人乗りした自転車。仲見世のオレンジ色の電球。清虎との別れが嫌で、泣きながら帰った夏の終わり。
角を曲がってマンションが見えなくなると、スマホからメッセージを知らせる短い音が鳴った。
『気いつけて帰れよ。また連絡する』
文字を見た瞬間、胸が締め付けられる。
あの頃とは違う。
互いに連絡先を交換したし、何よりも想いを伝え合った。
中学生の無力なあの頃とは何もかも違うと、何度も言い聞かせる。二度と会えないかもしれないという恐怖は無いはずだ。
「大丈夫。……大丈夫だ」
清虎がまた浅草を離れ、側にいなくなったとしても。
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