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嫉妬くらいさせてよ③

「どうしたの、その顔の傷」  今日、出社してからこの質問は何度目だろうと、陸はデータを打ち込む手を止めて、こっそり溜め息を吐いた。その度に「自転車に乗ってたら転んじゃって」と笑ってごまかしていたのだが、デスクの横に立ち陸を見下ろす深澤には通じなさそうだ。 「転んだだけです」 「どんな転び方したの。顔から行ったワケ? そんな派手な転び方なのに、傷は口元だけなんて、どう考えても不自然でしょ」  案の定、言い訳を一蹴されてしまった。  頬に貼ったガーゼの隙間から痣を見て、深澤は露骨に不機嫌そうな顔をする。 「誰に殴られたの。まさか、哲治くん?」 「殴られてません、転んだんです」  そう言い切って再びパソコンに向き直った陸は、深澤の存在を無視して作業を再開させた。出来ればこれ以上追及されたくない。  ところが深澤は、全くめげずに陸の顔を覗き込んだ。 「佐伯くん、昼休憩これからだろ? ちょっと一緒に外で食おう」 「俺、昼めし持ってきてるんで大丈夫です」 「昼めしって、どうせ栄養補助食品だろ。そんなんばっか食ってたら、ぶっ倒れるぞ。今作ってるその資料、うちの班のやつだよな。急ぎじゃないから、ちゃんと休憩取れよ。ほら、行くよ」  いつもより強めの口調で腕を掴まれ、陸は仕方なく従った。仏頂面の陸の背中を叩いて、深澤は笑う。 「そんな顔しないでよ。何食べたい? 何でも良いよ。ご馳走する」 「今日は俺が払います。いつも奢られてばかりじゃ申し訳ないし」 「そこは素直に先輩に奢られておきなって」    外に出た深澤は、社用車の鍵をポケットから取り出した。 「え。わざわざ車に乗って行くんですか」 「せっかくだから、市場調査も兼ねて。それに、ちょっとゆっくり話したいと思ってさ。この辺りの店だと会社の人間に会っちゃうだろ」  深澤が先に運転席に乗り込んだので、陸も渋々助手席に座る。会社の人間に会わずにゆっくりしたい話など、哲治の件かルームシェアの件以外に思い付かない。  そわそわしながら車窓を眺めていたが、車を十分ほど走らせたところで深澤はコインパーキングに車を停めた。

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