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嫉妬くらいさせてよ④

「どこに行くんですか」 「この直ぐ近く。鰻って好き?」 「好きですけど……市場調査も兼ねるって言ってませんでした? うなぎ屋にうちの商品の販路あります?」  陸は困惑気味に返答したが、深澤は余裕の笑みを浮かべる。 「鰻のメニューが充実した居酒屋なんだよね。デザートも置いてるから販路はあるよ。ホラ、あの角の店。古民家を改造してるんだ。雰囲気あるでしょ」  深澤の示す先に、確かに年季の入った趣ある建物が見えた。提灯で飾り立てられた外観は、夜にはきっと映えるだろう。  昼時のピークを少し過ぎていたおかげで、待つこともなく直ぐに案内された。老舗のような店構えだったが、内装は意外にも和モダンで、現代デザインと日本の伝統的なデザインが程よく融合されている。メニューを開くより先に、つい凝った内装に目が行ってしまった。 「洒落てますね」 「いい雰囲気だよな、落ち着いてるし。夜はカップルにも人気らしいよ」 「ああ、確かに。デート向きかも」  手頃な価格帯のメニューにもかかわらず、洗練された大人の空間に、高級感もある。人気と言うのも頷けた。  注文を済ませてから暫くは、当たり障りのない話をするだけだった。身構えていた陸は、少々拍子抜けする。  運ばれてきたうな重を頬張り、思わず陸は「うまっ」と声に出した。よく考えたら、昨日の夜は酒を飲んだだけなので、まともな食事は十二時間ぶりだ。 「佐伯くんさぁ、いつもあんまり血の気の無い顔してるけど、ちゃんと飯食ってんの? 実家暮らしだったら食生活は充実してそうなのに」 「平日はほとんど家で食わないので」 「へぇ。昨日は日曜だけど、家で食わなかったの?」 「あー。食うタイミングが無かったと言うか」 「今朝は?」 「今朝も……」  何だか誘導尋問されているような気がして、陸は口をつぐんだ。深澤は大袈裟に肩をすくめる。 「そんなに警戒しないでよ。貧血で倒れたりしないか心配なだけ。ところで、その傷は誰にやられたの? 零?」 「違います」 「じゃあ、やっぱり哲治くんか」  グッと言葉に詰まる。本当に聞きたかったのはこちらの方だったのかと気づいたが、もう遅い。答えられないことが答えになってしまった。

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