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嫉妬くらいさせてよ⑤

 陸は無言のまま鰻を口へ放り込んだ。咀嚼しながら深澤をチラリと見る。深澤の表情からは笑顔が消えていた。 「いつ殴られたの」  陸は誤魔化すことを諦め、「土曜日です」と短く答える。何だか叱られているような気分になってきた。 「傷は顔だけ? 他に酷いことはされなかった?」 「きよ……零が助けてくれたんで、大丈夫でした。それに、哲治も今は凄く反省してるんです。だから、もう解決済みと言うか。すみません、深澤さんにまで心配かけてしまって」  陸は箸を置いて頭を下げる。向かいの席で、深澤がため息を吐く気配がした。 「なるほど、零か……」  独り言のような呟きを聞き、陸は顔を上げる。深澤は頬杖をついて、考え込むように唸った。 「金曜の時点では、佐伯くんと零にはかなり距離があるように感じたんだけどな。そう。零が助けてくれたんだ」  参ったなぁと頭を掻いた深澤は、どこか苛立っているように見えた。陸は深澤の顔色を伺いながら、黙って次の言葉を待つ。 「ねぇ佐伯くん。心配かけてすみませんなんて、水臭いこと言うなよ。こう見えても俺、結構、頭に来てんだよね。佐伯くんに怪我をさせた哲治くんにも、その時助けてあげられなかった、不甲斐ない自分自身にも」 「いや、そんな。だって、深澤さんはその場にいなかったんだし、不甲斐ないだなんて言わないでください」 「うん。だから、金曜の夜に無理にでも避難させておけばよかった、って思ってさ。解決済みって言うけど、やっぱり一緒に住もうよ。本格的な引っ越しはまだ先でも構わないから、取り敢えず身の回りの物だけ持って、今日にでもウチに来ればいい」  ルームシェアという単語ではなく「一緒に住もう」と言われると、同じ意味合いなのに少しドキリとしてしまう。 「……凄く有難いお申し出なのですが、やっぱりルームシェアは遠慮しようかと。気遣って頂いたのに、すみません」  心配してくれている深澤に申し訳ない気持ちで、陸は再び頭を下げた。 「それは、もう哲治くんの件は解決したから? だとしても、物理的に一旦距離を置いた方がいいだろう。それとも、また別の問題があるのかな。例えば、零とか」

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