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第1話
その日、空は晴れていた。外に出ると、冷えた風が肌を撫でていく。つい先日までは色づいていた葉が総じて地に落ちているのを見て、アンリは冬が近づいていることを察した。
正確な日にちはもう分からない。森にある古びた丸太小屋にやって来て、暦表を見ていたのは、それこそ最初のうちだけだ。
一年を過ぎてから、暦表を買い足すことも止めてしまった。アンリにとっては、ただ時が刻々と過ぎていることだけが分かれば、それで良かった。
小屋の外に出てから、アンリはゆっくりと落ちていた栗を拾い始めた。冬を越えるための食料にする。それから、木の皮も取る。食物を燻製にするために必要だ。
冬が近づきとれる食材は減ってきたが、心配はいらない。ある程度の備蓄があるからだ。飼っている鶏は寒さに強く、畑には霜が降りてもきちんと育つ植物が植えてある。
肉親への殺人未遂の罪に問われ、アンリが家を出てから、もう二十年近くが経つ。
最初は愕然とした。誰一人として人間がいない森で生きていかなければならない自分。次いで、このまま誰とも話さなければ、いずれ発狂して自我は崩れ寂しさも悲しさも失うのではないかという期待。それらも時と共に風化していき、今、彼はただ、諦めながら時を過ごしている。
二十代も終わりに近づいた。畑を耕して家畜を飼い、木のみを拾って生き続けるのも、長くてあと数十年程度のことだろう。身体が朽ち、土に還れる日を楽しみに待つ。自然を育む物質になて初めて、アンリは自分が誰かの役に立てると、そう思っていた。
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