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第1話 転生プロローグ1
(ハル……ッ、ハル……ッ!)
満たされた水色の宙に、大庭遥(おおばはるか)は漂っていた。
意識を半ば手放し、昏睡しかけた遥の脳裏に、遠い地から名を呼ぶ声がする。別れゆく人をゆかせぬとばかりに張り上げられたそれに、遥の意識はかすかに乱れた。
(誰だ……おれを、呼ぶのは……、おれは……)
その声に引き止められた遥は、眉を寄せ、ふっと目を開けた。
(おれは……? 何だっけ?)
『──そうじゃな、死んだな』
「ふぁっ?」
蒼穹の如き空間に突然現れた異物に、遥はがばりと身を起こした。
「あれ……っ? おれ……」
『お主は死んだのじゃが』
振り返った遥の隣りには、仙人と称して間違いないしゃがれ声に禿頭、そして鳩尾まで伸びる白い髭を生やした老人が杖を付きながら立っていた。白いローブを纏った彼のつぶらな眸が、何かを見極めるように遥を見つめる。頭に直接響く老人の声に、駄目押しのように現状を認識させられた遥は、ぽつりと内心で呟いた。
(そうだ。おれは、トレーラーに轢かれたんだっけ)
上下六車線を横切り損ね、走ってきた海上コンテナを運ぶトレーラーに四肢を蹂躙された。無様な死に方だったと記憶している。痛覚も何もないことに物足りなさを覚え、起き上がると、老人はそれを待っていたように尋ねた。
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