10 / 179
第10話 ハル・ロゼニウム・ガーディナー1
「あの、ハルさま……?」
「ん? あ、ああ、手、放してくれないか」
「あっ、すみません……」
「いや……」
(くそ、ララに直接謝ろうとしても、言葉が出てこないってことは、補正がかかってるってことなんだよな……?)
どうにかララの機嫌を取りたいが、どうにもこうにもお手上げだった。下手にゴマをするような発言をしても、今のハルではツンが前面に出て、傷つける言葉を吐いてしまう恐れがある。加えて、ハルの記憶が確かならば、このあとすぐにウィリスの号令で大洗濯大会が催され、そこでララとウィリスは距離を縮めることになっている。
「ハル、頭痛の方はどうなんだ?」
ウィリスが覗き込んでくると、ハルの内部ではふわっとした何かが起こった。少なくともハル自身は、態度のとおりウィリスを疎んじているわけではなさそうだった。
「心配するほどじゃない。まだ痛むことは痛むが」
「ハルさま……。あのっ、このたびは、ぼくの騒ぎに巻き込んでしまって、申し訳ありませんでした……っ」
ぴょこん、とララが勢い良く頭を下げた。こんな可憐なベータを相手にどう立ち回ったらいいのかわからず、思わずハルの口をついて出たのは、ララを攻撃する愚痴だった。
「……まったくだ。あんな中庭で、人が大勢通る中、迷惑この上ない。おかげで酷い目に遭ったじゃないか」
(うう、このツンデレ野郎、扱いづらいったらない……! 別に気にしてないし、大丈夫だからって言いたいだけなのに……っ)
ハルが難儀して百面相をしていると、ウィリスが横から助け船を出した。
「それはララに言ってもしょうがないだろ」
「きみはこの転入生をかばうのか?」
「かばうも何も、リンチに晒されてたら、それを止めるのは風紀委員の仕事だ」
ともだちにシェアしよう!