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魔王の事情

 そうでなくとも、人間と分かりあえるはずなどない。  人間など、堕ちた魔族のなれの果てなのだから。魔界で生きる力を持たず、魔力さえ捨てた愚かな存在が人間だ。脆弱、その一言に尽きる。そのくせ強欲でもある。魔王にとって人間など取るに足らぬ存在だ。けれど、光の世界を手に入れる為には邪魔だった。  ――ちょろちょろと鬱陶しい。  放っておいてもよかったが、いちいち目障りであったから数を減らした。ただそれだけのことだ。  ――それをあの男は……。  最初はどうでも良いと思っていたが、あまりに執拗だから叩き潰してやったというのに、それでもキースは何度も向かってきたのだ。黒い瞳に燃えるような炎を灯して。  知らず、舌を打つ。  キースの位置を把握しながら、足の届かないだろう場所にいたとしてもキースは必ず姿を現す。まるで魔王の動きを全て把握しているようで不快だった。 「忌々しい」  白い闇の中で、拳を振り上げると、どこかでキースが笑ったような気がした。

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