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魔王と寝床と釣り

 それも随分と手際がいい。紐が足りなくなったのか、魔王が不機嫌な顔で手を伸ばしてくる。 「ああ、紐ですね」  紐なら最初からかなりの量を持ちこんである。きっと役にたつだろうと思ってのことだが、正解だった。  魔王は黙ったままで、丸太を半分に切った木材を組み上げ、みるみる出来あがったそれは高さのあるベッドだった。椅子としても座れる程の高さは、きっと地熱の影響を受けないので寒さにも強い。  その上に元からあった枯れ草を投げて形を整え、元キースの寝袋だった布を敷いて、魔王はその上に腰を下ろした。 「凄いですね、あっという間に立派なベッドだ」  魔王の工作はなかなかの出来栄えで、自分のベッドの貧相さが寂しげに見える。  ――私の分は、作ってくれませんよねー。  魔王はそのままベッドに横になり、キースから顔を背けて壁の方を向いてしまった。寝心地でも試しているのだろうか。  ――律儀。  思うと、また吹き出さずにはいられなくなる。  全く、いくら偽物とはいえ、こんな魔王は面白すぎるではないか。しばらくの退屈しのぎにはなりそうだと、キースは満足の笑みを蓄える。 「いやあ、まさか魔王がベッドを作れるなんて思いもしませんでした」  というか、寝心地にこだわるなど、いちいち面白い。この偽物はキースの想像の産物なのだから、これも自分の想像範囲内のはずで、自分がこんな想像をしているとは思いもしないのだが無意識下のことなのだろうか。 「木を切るのは苦手なので、これからな貴方にお願いしてもいいかもしれないですね」  木材が沢山手に入れば、もう少し家らしいものが出来るかもしれない。洞窟に不満はないが、せっかく時間はあるのだから、釣り小屋くらいは作れたらいいかもしれないと思った。  それから魔王は死んでしまったようにベッドに横になったままで、眠っているのかと確認してみるとぎろりと睨まれる。まるでじっと力を溜めているようで不気味ではあったが、キースはただじっとそれを見守った。

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