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魔王と寝床と釣り

 ◇  魔王との奇妙な生活は驚く程穏やかだった。  とはいえ、魔王はほとんどを寝床と食卓で過ごしているし、めったに口を開かないので、時々動く置物と共に過ごしているようなものなのだが。それでもキースはこの日々を楽しんでいる。  暗いと文句を言われた寝室をどう改善すればよいかは分からなくて今は放ってある。今のキースの仕事は食料の確保だ。  持ち込んだ食料はほとんど尽きている。移動魔法があるので、いつでも街まで買い物にいけるのだが金は全て復興中の村に渡してきたので、手持ちはない。それでなくとも、城から勝手に出てきた身、あまり人目に触れるのは避けたい。  元々、自給自足してみようと思っていたので、簡単な農具や釣り竿などは持ち込んである。畑は洞窟の前に作ってあるので、その手入れは昔家族と過ごしていた頃を思い出して楽しかった。  島内には大型の動物はいないようだが、鼠や鳥はいるので、肉が必要ならそれらを頂く。釣りをすれば魚を頂けるし、キースが一人細々とやっていくには十分なのだが、二人分になるとこれまでより釣りの頻度は高めなければならないだろう。  ――でも、魔王って案外食べないんですよね。  耐えているのか、元々食事を必要としないのかは、まだ分からないが、それでも用意しておくにこしたことはないだろう。 「じゃあ、私は釣りにいきますね」  寝室よりは明るい食卓側がいいのか、魔王は時折食堂――食卓と椅子と食料があるだけの空間だが――に来て地面に座り込んでいる。その姿を横目で見ながら、聞いてないだろうとは思いつつも、キースは魔王に声をかけた。  いつもは目も合わせない魔王が珍しくキースをちらと見る。何か言いたいのかも、と足を止めると、魔王は不意に鼻を鳴らした。 「何です?」 「こんな毎日に飽きないのか」  何気ない言葉ではあったが、これは魔王がキースの心情を問うた初めての質問だった。キースは自分の頬が勝手に緩むのを止められないでいる。  ――少しは私に興味が出てきた、のかな。  だとすれば、嬉しい。 「飽きないですね、やることは沢山あるので忙しいし」 「釣りがか」 「釣りもですし、畑も広げたいし、ほら貴方が寝室を暗いとか文句言うからなんとかしなければだし、私の寝床も何とかしたいですし。食いぶち増えましたからね」

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