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魔王と料理
魔王が焚き火にかけていた斧を引き寄せ、皿代わりにしている竹の上に魚を乗せた。魚といえば棒に刺して丸焼きか干魚を炙ったものだったので、こういう魚は久しぶりだ。わざわざ皿に乗せる魔王の律儀さが面白い。
「塩しかないのか」
「すみません」
「せめて香辛料くらい揃えろ」
謝りながら、キースは吹きだすのを必死で抑えた。
――魔王の料理。
工作も得意で漁もできれば料理もできる。
――人間界の全てを自分のものにする、ってこういうこと?
これではまるで他国の文化が大好きすぎて、その全部を何でも自分でやりたいという留学生のようではないか。確かに魔王を倒したあと、そういう民が城にいたし、それを思い出して益々面白くなる。
「いやあ、貴方って凄いですよ」
こんなに愛らしいなら、偽物魔王で良かったな、と時々思う。何より、便利だ。
けれど、魔王は焼いた魚をキースに渡すことはなく、一人で全て食べてしまった。
「私の分はないんですか」
「知らん」
思ったより便利じゃなかった。
「美味しいです?」
「悪くはない」
木の実の殻に溜めた水を渡すと、魔王は眉を顰めてキースを見つめた。
「貴様はこれに満足なのか」
「十分ですけど」
「俺はこれが最も許せん。これで水の味がわかるのか?」
「はあ」
「硝子の杯は持ち込まなかったのか」
「ああ、硝子は割れますからねえ」
水なんて何で飲もうが同じで、キースからすれば手で掬って飲んだっていいと思っているのだが。魔王は硝子がお気に入りらしい。
「硝子は人間界で最大の発明だ」
「魔界にはないんです?」
「無い」
魔王は忌々しげに舌を打ちながら、木の実の殻を投げ捨てた。
「キース、硝子を作れ」
「無理ですよ」
「だったら取ってこい」
「お金ないんですって。買い物もできないんですよねえ」
「取ってこいと言った」
「泥棒なんてしませんよ」
「使えんやつだ」
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