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魔王の事情 3
「色が変わる、気候が変わる、悪くないな」
やはり、人間界は面白い。
「必ず手に入れる」
「そんな事させるはずがない」
後ろにいるとばかり思っていたキースがいつの間にか隣にいて、魔王の襟首を掴んでいる。あんなに弱っていたことが嘘のような殺気を含んだ目で睨まれて、ぞくりと背中が震えた。
――またか。
キースの罠だと分かっているのに、湧き出てくる情欲に耐えきれず、顔を寄せて口を吸った。相変わらず、どの果実よりも甘い。
「――んっ」
魔王の襟首を掴んだままだったキースの手を振り払って、お返しにその首を掴んでやる。うなじに爪を立てると、キースの体がびくりと跳ねた。魚のように跳ねる姿にまた情欲が走る。もっと見たくて、何度もうなじに爪を立てると、その度にキースは跳ねた。
「っ、ぁ」
声を聞くとますます煽られる。吸っていた口を解放して、そのまま喉に噛みついてやる。
「何っ、――やめ」
柔らかく薄い肌に歯を立て、軽く噛む。やはりキースの肌は悪くない。
「やっ」
情欲がおさまらない。このまま血でもすすれば満ち足りるのだろうか。まったく厄介だと魔王はキースを睨む。
「貴様、体に媚薬でも仕込んでいるのか」
キースの体を突き放して魔王はそっと息をはいた。このままでは抱き潰したくなる。
キースは魔王を睨んだままで、肩で息をしていた。
「そんな訳ないでしょう」
「そうでなければ何なのだ」
以前は何でもなかったというのに、何故、今はこうもキースに欲情するというのか。キースの仕業でない訳がない。
「そんなの、私が教えて欲しいくらいだ」
キースが小さく呟く声にすら煽られる。
どうしてこうなるのかと忌々しく思いながら、魔王はもう一度キースの口を吸い上げた。
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