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魔王でなく勇者でなく

 魔法使いが悠々と立っていた。その後ろでワグが足を引きずりながら寄ってくるのが見えた。 「マリーを、呼んだのですか」  キースの問いに答えたのは、マリーだった。 「そうだ。お前らと何かあったら魔法鳩を飛ばすように預けていたんだ。来てみたら預けた弟子は首を折られかけているし、お前は魔王と心中しかけているし、一体どうなっているんだ!」 「ワグは、大丈夫なんですか?」 「万能薬を渡した。深い治療は戻ってからやる。それより、あれだ」  マリーが大げさに腕を振って魔王を指さす。 「少し見ない間に、どんどん魔法力が高まっているじゃないか! どうなっている!」 「だから、私が殺します」 「さっきのは殺すとは言わん。心中というんだ」  それでいい。どうせこんな罪悪感を抱えたままで生きてはいけない。キースはマリーの前に出ると、もう一度魔王を睨む。 「マリー、ここは私に任せてください」  同じ炎を呼ぶことは容易い。魔王とて、さっきはそれを受け入れていた。しかし、マリーはそれを許さなかった。 「ふざけるな。心中などさせるものか。あれは私が殺す」  マリーの手に火柱が立つ。キースが呼びだした火山の炎よりも強大なそれは一秒とたたず魔王を焼くだろう。けれどそれは嫌だった。どうしても自分の手で討ちたい、キースにあるのはそれだけだった。 「マリー、私に任せて」 「駄目だ!」   マリーの火柱が燃え上がる。それまで黙っていた魔王が不意に口を開く。 「俺もキサマの炎に焼かれてやる気はない」 「……キースの炎なら焼かれてもいいと?」 「少なくとも、キサマよりはましだ」

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