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それが愛だよ

「キース、お前もちゃんと向き合え。こんな阿呆みたいに愛されてんだから、ちゃんとそこに胡坐をかくんだ。お前は愛されている、お前が最初で最後と愛した相手からだ。――良かったな」  それだけ言い残すと魔法使いは霧のように消えてしまった。 「待て、魔法の話はどうした!」  叫んでもそこには何もなく、サラギの声が響いただけだった。これでは何も解決していないではないか。憤慨しながら舌を打つと同時に、服の裾を引かれた。キースの手が、弱々しくサラギの服の裾を引いているのだ。 「何だ」  見つめた先、キースは何か言いたげに顎を上げたが、声にならないのか、また目を閉じてしまう。その頬が上気していて、また熱が出たのかと慌てて触れてみるが、熱いのは頬だけで他は大丈夫そうだった。安堵しながら、その頬に口付ける。 「っ、サラギ、あの」 「俺は、貴様を愛しているらしいぞ」  そう口にすると、体中を何か風のようなものが走った気がした。以前、キースにそう言われたときに感じた身を包む暖かな、けれど他の何とも違う、あふれ出すような衝動に息を飲む。この感覚が愛を知るということなら、これは悪くないとサラギは思った。 「――ぁっ、もう、本当、勘弁してください」  キースが布団にもぐりこんで隠れた。 「なんだ、怒ったのか」 「違います」 「拗ねた、のか?」 「違いますって。その、照れたんです」  照れた、また新しい言葉だ。その意味を知るにはキースの顔を見なければならないだろう。病床とはいえ、耐えきれず布団を剥ぐと顔を赤くしたキースが恨めしそうにサラギを見つめていた。今まで感じたことなどなかったが、幼い顔立ちが益々幼く見えて、サラギは声を上げて笑った。  ――照れた、も悪くない。  そう強く思いながら。                         終  

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