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それが愛だよ

 違うな、とサラギは独りごちた。さっきも口にしてやったというのに、キースは何も分かっていない。どう言えば伝わるのかと、頭を巡らせたが上手い言葉などなく、仕方なしに想ったことをそのまま口にする。 「失いたくない。俺は貴様を失いたくないだけだ。キース、貴様の代わりなど、どこにもない。少しはそれを理解しろ」  いくら睨まれようが、責められようが、そこはもう譲ることができないサラギの核になってしまっているのだ。自覚したのだから、もう他の誰が何を言おうがサラギには関係ないことだ。  呆然とサラギの言葉を聞いていたキースがそっと瞬き、その瞼の間から一滴、こぼれる。キースの涙は苦手だ。どうしたらいいか分からなくなる。サラギは黙ってその雫をぬぐうと、そっと口に含んだ。  と、 「あー、なんだもー、やってらんねえなあ」  魔法使いが叫び出した。らしくない言葉遣いにキースと顔を見合わせたサラギは眉を顰めて呼んだ。 「魔法使い?」 「マリー?」  魔法使いは、ばりばりと大仰に頭をかいてから、疲れたようにがっくりと肩を落とす。 「もういいわ、見せつけられ過ぎて胸やけ酷いわ。年寄り相手になかなかだな、おい」 「ま、マリー?」 「無自覚ってのがまた怖いわ、本当、若い者はいいねえ」  そう言いながら、マリーはドレスをひるがえして背を向けた。 「おい元魔王、お前さ、もうそれ、愛だよ」 「は」  唐突な言葉に、サラギは目を細める。何故今急に愛の話が出てきたのか、まるで理解できない。 「まあ、だが、お前はそんなものずっと前から知っているんだけどな。キースだけに満たされるとか、そんなの愛に決まっているだろう。無自覚にも程があるわ。その上、キースを失うのが嫌だから嫌いな私に頭下げて回復魔法習うって? とんでもないよ」  ――これが……なのか?  ただキースを欲しいと思い、失いたくないと思うこの感情が。だとすれば、そんなものは魔法使いの言うように、随分前から知っている。

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