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それが愛だよ
それも、この魔法使いのだ。魔法を教えさせたあとに消す、ということも、この魔法使いが相手では難しいだろう。どうするべきか、サラギが知らず唸ったときだった。
「そんなこと、しなくいで、くださいよ」
聞きなれた、けれど通常よりも随分か細い声がサラギの耳を揺らした。風を切る勢いで振り返ると、寝床の中でキースがそっと、その目を開いたところだった。
久方ぶりに見る黒い瞳に、サラギは急に喉のあたりが苦しくなる。なんとか絞りだした声は少し枯れていた。
「キースっ」
キースは口だけで微笑んだあと、力ない目でサラギを睨んだ。
「貴方、何、言ってるんですか。マリーの、弟子、なんて」
「ああ、回復魔法が欲しい」
「そんなに欲しいなら、私が、教えます」
「貴様のでは足りん」
キースの前髪を指で払いのけ額に触れると、熱は随分下がったようだった。あんなに苦しんでいたのに、魔法使いの魔法でこんなにもすぐ治るのならば、どうしてもこの力が欲しかった。
「貴様が悪い」
「――寝込んだりしてすみません。でも、本当に寝ていたら治るので」
「違う、貴様が己に無頓着なのが悪いんだ。どうせこの先も同じことを繰り返すならば、俺だけは貴様に頓着してやる」
「な……」
絶句するキースに構わず、サラギはもう一度魔法使いを見つめた。甚だ不本意ではあるし、怒りもある。けれど、他に方法がないのならここは屈辱を飲むしかないのではないのか。
「回復魔法を教えろ」
「――本気か」
「っ、駄目です、そんなこと、貴方はしないで! 貴方は変わらぬ貴方で、いいんです」
キースの叫びは切れ切れだけれど、どこか悲壮だった。きっとまた、己を責めているのだろうが、そんなことサラギは知ったことかと思う。
「俺がそうしたいと思ったから、している。貴様に指示されるいわれもないな」
「どうして、そんなに、回復魔法にこだわるんですか!」
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