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それが愛だよ
けれど、それではきっと、また同じことが起きるということだ。そんなことになるのに、何も用意していないキースにまた腹がたってくる。
――だから俺がなんとかしてやる。
キースが己に執着しない代わりに、サラギが誰よりもキースに執着する、そうすれば整合性もとれるというものだ。
「それにしても、お前が私を呼ぶのが、キースの為なんてな」
ふわりとした笑みを浮かべた魔法使いは、初めてサラギに向けて微笑んだ。それを不愉快だとは思ったが、今はそれを口にすることはやめておく。代わりに言いたいことがあったからだ。
「おい。俺に、回復魔法を教えろ」
「は? お前、何言ってるんだ。お前に魔法など――いや、回復魔法など使えない。回復魔法は他の魔法と違って精霊の力を借りる訳じゃない。人間の持っている治癒能力に訴えかけ引きだす魔法だ。何よりも人間の力を信じていないと無理なんだよ」
それが本当なら、サラギには使えないというのは理解できる。人間の力を信じることなど、人間を否定しているサラギにできるはずもない。けれど、そんなことはやってみないと分からない。
「それでもいいから、教えろ」
「だから無理だって。お前が使えなくてもキースが使えるんだからいいじゃないか、何をこだわっているんだ」
「キースが倒れたときは、俺が治すしかない」
そうそう毎度、魔法使いを呼びだす訳にもいかないだろう。今回はすぐ来て間に会ったが、毎回そうできるとも限らない。なにより、サラギは己の手でキースを助けたいと思った。
魔法使いは息を飲んで、目を見開いていた。だが、その口は「応」と言わない。
「頼む」
「た、頼むって、お前が、私に……キースの為に? 阿呆、お前は元魔王だろうが。そんなことで私に頭を下げるのか」
「キサマが言ったのだろう、俺はもう魔王ではなく、魔族でもない。俺は、俺だ」
金の目が何度も瞬いては、サラギとキースを見比べては、また瞬いた。
「――私は弟子にしか魔法を教えん。お前、私の弟子になれるか? 無理だろう?」
魔法使いの弟子になる。人間の、弟子。そんなことは考えられない。いくら魔王でなく魔族ですらないと暴言を許しても、人間の下につくなど、できるはずがない。けれどこの魔法使いの回復魔法が使えたなら、この先何があってもキースを治すことができるのではないか。それは酷く甘い誘惑だった。
――しかし、弟子などと。
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