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それが愛だよ
瞬間、胸元に光が宿ったかと思うと、その光がみるみる鳩を形どって、空へと舞い消えた。何が起こったのか息を飲むサラギの前に、やがて金色が現れる。こうも、この金色を待ちわびたことなどない。
「なんだ、お前、私を呼んだか?」
魔法使いは相変わらず豪華なドレスに身を包み、悠然とサラギを見つめている。憎らしいのは変わらないが、今はそんな感情よりも、安堵が勝った。
「キースの熱が下がらん」
「熱? ああ、だから私を呼んだのか。分かった、見よう」
魔法使いの言葉を最後まで聞かず、サラギは魔法使いの腕を引き洞窟の中まで駆ける。
「ちょっと待て、乱暴だな」
「早くなんとかしろ! もう四日起きん」
キースの寝床まで引きずると、魔法使いはキースの様子を伺ってから、魔法を唱えた。
「どうだ、治るか」
「ああ、大丈夫。まあ、すぐに元気という訳にはいかないが、熱は下げておくから、ゆっくり回復させてやれ。食事は?」
「していない」
「だろうな。消化のいい物、あー、柑橘じゃない果物なんかがいい」
本当にそんなことでキースは良くなるのか疑問だったが、今は魔法使いの言葉を信じるしかないのだろう。魔法使いはしばらくキースに回復魔法をかけていて、確かにキースの顔から苦痛が消えていく。短く荒れていた息が、静かな寝息に変わったときには安堵の息が漏れた。きっと、これで大丈夫なのだろう。
キースを見つめていた魔法使いが、ぽつり呟いた。
「この子は昔から、時々こうなるんだよ。急に熱が出て、しかも大丈夫大丈夫と言うから性質が悪い」
「何か病なのか」
「いや? 多分、抱え込んだものを抱えきれなくなると熱になって外に出るんだろう」
「死なないのか」
「熱が下がれば大丈夫だ」
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