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それが愛だよ
しかし、キースは次の日も目を開けなかった。
時折欲しがっていた水も欲しがらなくなったので、無理矢理に口を開いて飲ませてはいるが、明らかに衰弱している。ようやく、サラギはこれが「普通」ではないと気付いた。
もしこのまま目を開けることがなくなってしまったら。
足元から寒気が襲い、背中を粟立て、頭の先まで冷えていく。人間は、あっけなく死ぬ。そんなことは良く知っていたのに、何故ここまで放置してしまったのだろうかと、サラギは一人吠えた。
「キース、キース!」
肩を揺らしても、黒い瞳は見えない。
――俺は失うのか?
他の何よりも己を満たす、ただ一つの存在を。人間はこんな喪失を得てなお、生きていけるのかと驚愕する。
不意に、魔法使いに渡された絵本のことを思い出す。兔は伴侶を病気で亡くし、独りになった。何故か、今、その兔と己が重なって見える。
――そんなはずがない。この俺が。
きっと、何かできることがあるはずだ。だがどうすればいい、どうすれば。まだ魔王として勇者のキースと対峙していた頃はどうだったのだろう。サラギの攻撃を受けて傷つくことなど日常だったはずなのに、次に会ったときのキースはいつでも傷一つなくサラギに対峙した。
「ああ、魔法か」
回復魔法であればどうだろうか。キースは苦手だと言って、あまり高度なものが使えないらしいが、あの魔法使いならば。
「そうだ、魔法使い」
何故、気付かなかったのだと己を唾棄しながら、サラギは洞窟から飛び出した。魔法使いはサラギを監視していると言っていた。どのような方法かは分からないが、キースが出かけるときを知っているように現れるからには、その言葉は真実なのだろう。
「魔法使い! どこにいる!」
眩しい程の晴天の空が辺りを照らしているが、見慣れた光景以外、何も見えはしない。声が届くはずもないのだろうが、それでも今は魔法使いの回復魔法を頼る他、サラギにできることはないのだ。力の限り、叫ぶ。
「魔法使い! ここへ来い!」
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