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第3話
朝晩が冷え込むようになり、それなりに防寒が必要になる季節。
木々は赤く染まって、冬に向けて葉を落とす準備をはじめている。
「うーわ。さむっ!」
早々に出社した俺はまだ誰もおらず冷えきったオフィスに暖房を入れた。
まだ秋だと云うのにこんなに寒いなんて、俺は寒いのが嫌いなんだけどなー。
そんな愚痴をブツブツと言っている間に暖房がきいてきた。
俺は給湯室に行き、暖かいコーヒーを入れた。
パソコンに向き合い座る。来ていた連絡を返して、今月末にある社員旅行の計画を立てはじめた。
今月末、社員旅行に行くことになったのだ。自由参加だが、去年幹事としてジャンケンに負けた俺は強制参加となってるが。
取り敢えず、皆の意見で京都と奈良県の観光が多かった為、バスツアーを使って観光に行こうと思う。
俺の高校時代の友達がツアー会社の社長で大幅に割引してくれるらしいから、ラッキーだな。
奈良県で2泊して京都で2泊の4泊5日の構成と考えている。どちらとも初日はバスツアーで回って2日目が自由行動でと思っている。宿泊施設は、どちらとも旅館となる。
部屋割りはクジ引きで決める。これは上司・部下関係なく仲良くしようねって意味でやるらしい。小学生かと心の中では皆思っているはずだ。でも、そんな事はこの際どうでもいい。
あとは細かい計画と金額の計算をしなくちゃな。
あー。面倒臭い。だけど以外と楽しみだったりする。でも、上司のご機嫌取りを常にしないといけないってのは少々アレだけどな。
そんなふうにぶつくさと、文句を言いながら作業をしていたら皆が出勤して来る時刻となった為、計画はそこまでとして自分の仕事に取り掛かった。
◆◇◆◇◆
「ヤバい。疲れた……。」
今日はmomoではなく二丁目のクラブに来ていた。周りはほとんど酒を片手に騒いでいる。
俺はというとセフレ2人と端の方で座って飲んでいた。今日は静かなmomoよりもコッチのクラブに来た訳は特に無い。完全に成り行きだ。
「どうしたー?ため息ついて。」
「涼太にしては珍しいね。何?最近誰ともヤってないの?」
黒髪のマッシュヘアの方は皐月、グレージュのハーフアップの髪型の方は裕太。
2人ともセフレで、セックスしている時間よりもどちらかというと、よくこうやって話していることの方が多い。
「そうじゃなくて、来月末社員旅行があるんだけどそれの計画を立てなきゃなんないの。それが結構細かくて面倒臭いんだよね。」
「社員旅行か……。俺は美容師だから社員旅行なんて無いしねー。裕太は?」
「俺も無い。」
「そういや、裕太はカフェのオーナーだっけか?」
「そうそう。」
俺は酒を口に含みながら、もう一度出てくるため息と一緒に飲み込んだ。
「はぁ…誰でも良いから癒して欲しいー。」
小さな声で言ったつもりだった。
けど2人にはしっかり聞こえていたようで、目を合わせて笑っていた。
「めっずらしー。」
「それな。何?やっぱ溜まってんの?」
「…どうだろうね。こう見えて俺ってモテるから?」
そう言ってニコッと笑ってやれば逆に呆れた様にため息をつかれてしまった。
「恋人作ったらいいのに。ねー?」
「そうそう。随分とおモテになっているんでしょ?」
さっきの話の仕返しとばかりに言ってくる皐月に同じく裕太が相打ちをうつ。
「あー。俺、そういうの嫌いだから。面倒臭い。」
恋人なんていらない。体だけの関係なら出来ることも、恋人なんてなったら情が移って出来なくなる。
例えば、結婚とか。子供とか。
男同士でも、子供も結婚もでき無いことはない。体だけの関係なら、突き放す事が出来ても恋人という言葉に雁字搦めになって突き放す事が出来なくなる。
それはメンタル的な部分でも。俺は誰かに依存してしまう事が分かっている。だから、元から依存する相手を無くしてしまえばいいと思っている。
「へぇ~以外だね。涼は恋人とかすぐに出来そうだけどなぁ。」
「いやいや、コイツに限ってそれはないでしょ。このとんだヤリチンが。ひとりとヤるより大勢とヤッた方がいいとか思ってそう。」
裕太達が話しているのを横目に俺はガムを口に放り込みカリッと噛む。
「ヤリチンか……。あ、そういや、臣が別れたらしいぞ。」
ヤリチンと言う言葉で何故か臣の事を思い出した。
本人に言ったらなんて言葉で思い出してんだって怒られそうだけど。
「えっ。まじで?」
「おん。最近ヤったし。」
「やっぱ、ヤリチンじゃん。」
「つっても2週間くらい前だよ。」
この2人も臣とよく呑みに行っていたらしく、恋人と別れた事に衝撃を受けていた。
「でも、臣って結局男見る目ってのがさ?」
「うん。」
「結構、抜け目ない感じなのに。今回は振られたか~。」
特に皐月は臣と普通に友達らしく、よく遊びに行く仲で。臣の相手とも、3人で呑みに行ったりしてたらしい。
「そういやさ、この前。涼と同僚?みたいな人をカフェの窓位から見かけた。」
「えー気になる!男?」
「うん。なんか結構ガタイが良かったし、背も高かった。皐月の好みって感じの。」
「あー。それ多分後輩だと思う。」
そう言うと、裕太は驚いた顔をして「アレが年下?」と言ってきた。確かに。俺もアイツの世話係になった時はそう思ったもん。コイツ絶対に年上だろって。
「へぇ。俺のタイプって感じの人なんだー。ねぇ、涼太?」
「嫌だ。」
「えー。まだ何も言ってないじゃん!」
「どうせお前の事だ、紹介しろとか言うだろ?」
「うん!」
皐月は気持ちの良い程の笑顔で頷いた。
「あのなぁ…俺は職場でカミングアウトして無いし後輩もノンケ。この意味分かるだろ?」
そう言うと皐月は諦めたようで残念そうに裕太に頭を撫でられていた。
「そっか。ノンケじゃ仕方ないね。」
「それに、カミングアウトしてないなら尚更ね。」
皐月は理解してくれたのか、
期待した分だけ後悔するのは俺達、普通じゃない奴。俺達はそれを分かっている。だからもう。ノンケに恋なんて間違ってでもしない。
その日の飲み会はそれから少ししてお開きとなった。
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