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第12話

蓮とは俺がまだmomoに通い始めた頃に出会った。 俺は蓮と出会う前から、今程ではないが時々momoに通っていた時期があった。 俺はカウンターにノートパソコンを広げて、仕事の仕上げをしていた。人の少ないこの時間帯のmomoはとても好きだった。そして、その時の俺は企画書や提案書を積極的に出していた為、momoで飲みながら仕事をする事が多かったのだ。マスターのオススメのカクテルを飲みながら仕事を終わらせた時、2つ隣の席にいた蓮が話しかけてきたのがきっかけだった。 「仕事ですか……?」 グラスを片手で回しながら蓮は聞いてきた。その時の俺は少し驚いて「はい。」とだけ返した記憶がある。 蓮は「お疲れ様です。」と言ってマスターに俺宛のてカクテルを出させた。 「僕からの奢りです。あ、無理に飲まなくてもいいので……!」と柔和な笑みを浮かべて、自身のカクテルを飲み干した。 そして、会計を済ませて帰って行ってしまったのだ。 今、思えばそんな出会いは運命のようだった。 それから、暫く蓮とは合わない日が続いた。俺は何となく気になりながら、momoへ足を運んだ。 すると同じ席であの日と同じカクテルを飲みながら、マスターと話している蓮が居たのだ。 俺は少し嬉しくて。でも、悟られないようにしながらもいつもの席に座った。 俺に気付いた蓮は、くしゃっと笑顔を見せて「お久しぶりです。また。会えて嬉しいです。」と言った。 それにつられるように俺も笑顔になった。そこからはもう。すぐに仲良くなり、恋人になるには時間はそう掛からなかった。 俺は蓮が好きで。蓮も俺が好きで。互いに離れることなんて考えられない程に依存をしていた。離れることを選ばない生き方ってこういう事だろう。 しかし、そんな生き方は直ぐに先が見えなくなった。あの日倒れた蓮を連れた病院先で彼の余命宣告を聞くまでは。 その宣告は自分が死ぬよりも、家族が死ぬよりも辛かった。 ──大腸がん。ステージ4。余命1年。 それを聞いた時、頭が真っ白になった。当たり前だ、愛してる人が1年経ったらいなくなると分かって仕舞うのだから。 俺はただ泣く事しか出来なかった。そして、病名と余命宣告を蓮に話しながら泣く俺を見て、蓮は「大丈夫。」と一言だけ言った。 だけど、蓮は1年も生きられなかった。蓮が生きる事を諦めた様に俺には見えた。 亡くなる、数時間前に俺の手を握りしめて「僕の事は忘れていいから。…愛してる。」と言った。 俺は訳が分からず「忘れるわけない。」と言って蓮の手を握り返した。この時、「愛している。」ってどうして言えなかったのだろう。 そして、数時間後の夕方。蓮は冷たくなっていた。最初に発見したのは俺だった。 コンビニに水と昼食を買いに行って、帰ってきたら。蓮の顔は真っ白になって怖いほどに無表情だった。 ◇◆◇◆◇ 懐かしい事を思い出しながら、俺は皐月と裕太の恋バナを聞いていた。 ここはラブホのベッドの上である。どうしてここに居るのかなんて、悪ふざけでしかない。 「って聞いてるー?」 「ん?あぁ…。そんなに言われても紹介しないぞ。」 「え~!いいじゃん!ゲイだって事を隠して紹介してよー!!」 「あのなぁ。いい加減に気付かれた時の事を考えろよ。結局、苦しむのは……傷付くのはお前だぞ!!?」 皐月は相当酔っていて、小林を紹介しろとまた言ってきた。 しかし、何度断っても諦めない皐月に俺は少し頭に血が上り声を荒らげてしまう。 皐月と俺のやり取りを見ていた裕太がため息を吐いて一言、ぽつりと言った。 「涼太は何を怖がってるの?」 俺は裕太の言っている訳が分からず、拍子抜けした。俺は答えを求めるように裕太を見つめた。 「……何…?」 「涼太は皐月の事を想って言ってるのは分かる。でも、その中に涼太の心の寂しい部分が見える気がするのは俺だけ?」 俺の寂しい部分……。俺は寂しいのだろうか。裕太や皐月、桃瀬。会社の同僚や上司・後輩。俺の近くには沢山の人が居て、皆と分け隔てない心持ちで接している。傍から見ればそれは、寂しそうには見えないだろう。 「…俺には寂しい部分なんて無いように思える。俺に寂しい部分があるなら、それは誰もカバーできっこないよ。」 久しぶりに蓮の事を思い出したからだろう。少し病みそうになる。思春期じゃあるまいし、しっかりしないと。 「ごめん。俺、頭冷やすから帰るわ……。」 「え、終電無いよ?」 「タクシーで帰るから大丈夫。じゃあな。」 俺は荷物を纏め、ジャケットを着てラブホから出た。 深夜のラブホ街を抜けて大通に出てタクシーを捕まえる。 タクシーに乗ると、気さくな運転手さんが話しかけてきた。 「お兄さん。仕事だったんかい?」 「ああ、まぁ。そんな所です。」 流石にラブホ帰りですなんて口が裂けても言えない。俺は曖昧に返事をした。 「おいちゃんも、お兄さん送り届けたら今日の仕事は終わりや。今日もお互いお疲れ様やなぁ。」 「……はい。」 俺は窓の外を見ながら適当に返事をした。 すると、運転手さんはバックミラーで俺の顔を確認して伺うように口を開いた。 「所で、お兄さん。失礼かもやけどアンタ二丁目に居るってことはやっぱりコッチの人?」 突然、プライバシーもモラルも関係の無い質問をされた。 「いやっ…違います……。」 俺は咄嗟に違いますと言った。そして、後悔した。別にこの人に気持ち悪がられようが何も何も関係のないことなのに。でも、やっぱり嘘を付かないと本当の自分が否定された時に悲しくなる。 でも、嘘を付くと自分で自分を殺してしまっているように感じる。 「そうかぁ…おいちゃんなゲイやねん。せやから、嫌なら言ってな。どうにかするから。」 突然のカミングアウトに俺は固まってしまった。しかし、それよりも包み隠さず自分の事を言えている運転手さんに羨ましさと凄さを感じた。 そして、申し訳なさそうにしている運転手さんが少し可愛く見えて自然と体の力が抜けていく。 「どうにかって…はははっ。運転手さん俺は大丈夫ですよ。人を差別なんてしません。」 そう言うと運転手さんは柔和な笑顔を見せてくれた。 「ありがとーな。お兄さんに会えて良かったわ…!」 なんか単純だが俺の寂しい部分は少し満たされたかもしれない。

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