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第13話

「う"ーん!……よしっ!終わった~。」 日が落ちて定時を過ぎようとした頃、提出する書類が終わった俺は盛大に伸びをしていた。 全く持って後輩の当て馬にされてしまった。 首を回して凝りを解していると、小林が珍しく定時で上がっていない事に気付いた。基本的に無駄な残業なんて中々しない為、少し気になって小林を見ていると何やら次の企画の書類を作成していた。結構な量の書類が重なって見える。 「小林くーん?書類大丈夫そう?結構な量あるけど…。」 俺はその書類の多さに思わず声を掛けてしまった。すると、少し疲労の残る顔をした小林が俺を見て「大丈夫です。」と一言言った。 とは言え見るからに大丈夫に見えない。それに今夜で終わる量ではなかった。 「はぁ……。小林くんさ、少しは人を頼ろうよ。 ……はい。これとこれは締切明日だから俺もやったげるよ。とりあえず、お前は小休憩ね。」 誰も頼ろうとしない小林に少しイラッとして俺は勝手に積み重なった書類の山から明日提出の書類を抜き出しデータを集め始めた。 「ちょ…暁さん…!いいですよ…貴方もう帰るんでしょう?」 「いいの。いいの。どうせ暇だから…! それに、今回のこの企画のリーダーは小林くんでしょー? 初めて自分で考えたこの企画が通ったんだから、俺は全力でサポートするよ。だから、今の内に頼れるものは頼って上にのし上がらないと…!」 そうパソコンに向かいながら言うと、小林はため息を軽くついて「ありがとうございます。お願いします。」と言って作業にまた取りかかった。 いや、休憩しろよ。 ◆◇◆◇◆ 時計の針が深夜1時をさす頃、俺と小林の残業は終わった。 俺はコーヒーを飲みながら仕事をしていた為、目がギンギンに冴えてしまっている。それは小林も同じなようで、眉間のシワを伸ばしながらふぅっと息を吐いていた。 「小林くん。これ明後日までのやつ明日にでも出しておいてー。」 俺は完成した書類を小林に渡した。すると小林はその書類をすぐに確認した。端から端までしっかりと確認をしているのだろう、暫くたってようやく俺に目線が帰ってきた。 「凄い…暁さんって、やれば出来るんですね…。ありがとうございます。助かりました。」 「一言余計な気がするんだけど……。まぁ、いいや。どういたしましてー。」 俺はまた大きく伸びをして深呼吸をした。 じんわりと腰に溜まった疲労が少し全身に流れ出くるような感覚に少し、ため息が出た。 ◆◇◆◇◆ 小林と会社を出ると2人で大通りまで歩くことにした。 背の高い小林は落ち着いた色のコートを着るだけで俺よりずっと年上に見える。自分の魅せ方を解っているようだ。 「暁さん。何で帰るつもりですか?」 「俺?タクシーかな。終電無いし。」 そう腕時計を確認しつつ小林に視線を戻す。 「そうですか…今回のお礼にタクシー代出させて下さい。」 思い付いたように小林は言うが、何気にタクシー代も高いだろうに…。 「いや、いいよ。」 「……。」 断ったが、無言の圧力で押し切ろうとする小林に俺は少し怯む。それからどうしても引き下がる気のない問答に俺は、仕方なく折れた。 「はぁ…じゃあ来週飲みに行くからその時に付き合ってよ。それでいい?」 来週、俺は特に用事もないが小林が1歩も引かない為、代わりに飲みに行く約束をした。 「…分かりました。来週ですね。予定を空けておきます。」 どうにか納得したようで、小林が捕まえてくれたタクシーに乗り込んだ。 俺に一礼して頭を下げながら、小林はまた自分のタクシーを捕まえていた。 「来週か……。 何処に飲みに行くか決めておかないとな……。」 少し高鳴る胸を抑えて俺は携帯で小林の雰囲気に合ったBARを探し始めた。 ◆◇◆◇◆ 「ねぇ…裕太。どうしよ。変な約束してしまった~。」 俺は今、いつも通りmomoのカウンターで酒を煽りながら明日の小林との飲みの席の緊張を、珍しくmomoに来店していた裕太に話していた。 「そんなこと言われても知らないよ。てか、ノンケには手を出さないんじゃ無かったっけ…?」 そう、裕太はカクテルを煽りながら横目で俺を見てくる。 安定で裕太は冷たく、俺の痛い所を突いてきた。 「まだ、手は出してないし。出すつもりもないよ~。はぁ。明日どうしようねぇ。」 「……そんなに考えるならいっその事、ここにすれば?」 俺が項垂れていると見兼ねた裕太がmomoを勧めてきた。 「それはもう。俺がゲイですよーって言ってるもんじゃん。」 「大丈夫。ここは一応ゲイバーなだけで、ノンケもビアンも来ていいLGBTQバーだから大丈夫でしょ?感覚的にミックスバーみたいな? だから、友達とよく来るって言っておけば良いよ。」 裕太は髪を弄りながら俺に言ってきた。 確かに、momoは誰でも来る事が出来るシンプルなLGBTQ店だと思う。 改めて考えると別にmomoに飲みに誘ってもいいのか…。 俺は少し迷ったがパッと顔を上げて目の前に居るマスターを見た。 「…マスター。明日ここに新規連れてきても大丈夫そ?」 「ええ。お待ちしていますよ。」 氷を削る手を止めてマスターはそう微笑んだ。 実家の様な安心感の元、俺は少し勇気を出してmomoに連れてくる事にした。

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