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第14話

「俺…初めて二丁目に来ました。結構馴染みやすいんですね。」 大通りからmomoまでの道のりを、約束通りした通り小林と歩いていると、周りを自嘲気味にキョロキョロ見ている小林が言った。 「そうかもな…俺も初めての時はなんか緊張した。」 俺は適当に相槌をしながら歩いていると小林が急に立ち止まった。何かあったのか気になり振り向くと小林が驚いた表情で固まっていた。 「どうしたー?」 「いや…あれ…って」 小林が指を指した先には路地があった。小林の指す方に更に視線をやると男同士で…していた。何がとは言わないがしていた。 「見なかった事にしてやれ。…単純に可哀想だ。」 そう言ってその場から逃げるようにmomoへ向かった。 少し二丁目のディープな部分を純に見てしまった小林は気持ちソワソワしていた。それが何故か面白くて口元が緩んでしまう。 ◆◇◆◇◆ やっとmomoに着き、少し重めの扉を開けて中に入る。 中に入ると人が少なくその殆どがテーブル席に座っていた。俺はと言うと、小林とテーブル席ってのが気恥ずかしくカウンターに座った。ここなら何かあったらマスターに助けを求められる。 「いらっしゃいませ。…何に致しますか?」 いつもと変わらず落ち着いた声のマスターが注文を聞いてきた。 俺はいつも飲んでいるウイスキーのロックを頼み、隣に座る小林に「どうする?」と問う。 「俺…あんまりこういう所慣れてないので…。」 少し困り顔で俺に言ってくる小林に少し苦笑した。 「小林。酒強い?」 「はい、結構自信はあります。」 「じゃ、マスター小林も俺と同じのを。」 そう言うとマスターは「かしこまりました。」と言った。 「暁さんってこういった所によく来るんですか?」 小林は周りをちらっと見回してそう聞いてきた。 流石にこの場所がどんな所か察している様子だった。 「そうだ…「そうなんだよー。もう、一時期はここが家かーってくらいここに来てたし。」 俺が返事をしようとしたら、丁度割って入ってきたのは桃瀬だった。 桃瀬はカウンター内から俺達に話しかけてきている。どうやら、今日はタイミング悪く桃瀬が来る日だったらしい。 小林は意味が分からず俺と桃瀬を見ていた。 「はぁ…桃瀬お前…。」 「どうも。ゲイバーmomoのオーナー桃瀬でーす。いらっしゃいませ~」 桃瀬は小林に、にこやかに挨拶をして牽制をしていた。 「…はい。…暁さんとはどういった?」 「オトモダチです。小林さんは…?」 桃瀬は俺達の会話を聞いていたのか小林の名前を知っていた。 「会社の後輩です…。」 少し場の空気が重たくなった気がするが、俺はなんとか俺はいつも通りに接する。 「桃瀬…お前邪魔しに来たなら店変えるぞ?」 俺が少し真面目に言うと桃瀬は少しむくれてしまった。 「あーあ。こんなに可愛い涼太が僕以外と仲良くするなんて…お仕置きが必要かな? 」 そう、小林に聞こえるように言った。 俺は冷や汗をかきながら隣に居るマスターに目線で助けを求めた。 するとマスターは桃瀬にコソコソと耳打ちして、桃瀬をバックに返した。 「お騒がせ致しました。こちらウイスキーのロックですどうぞ。」 俺は貰ったウイスキーを飲みこの状況に怒っていた。 「…暁さん。」 「なに?」 「貴方もしかして…いや。やっぱりいいです。」 少し考えて小林は言おうとした事を取り止めた。辞めてくれて良かったかもしれない。 「そっか…。」 やっぱり、momoに連れてくる事は失敗だったかな…。俺は少し落ち込んでしまった。小林と他愛ない話をしていても上の空だった気がする。 ◆◇◆◇◆ 暫くしてmomoを出ると以外と時間が経っていたのかもう深夜だった。 深夜に夜道を歩くのは心が落ち着く感じがして好きだ。 隣を見ると酒を飲んで少し顔が火照った小林が俺より少し後ろで歩いていた。 「なぁ、小林?」 「はい。…どうしました?」 問いかけたのにも関わらず、黙っている俺を見て小林は心配の表情を浮かべた。 コイツってこんなに表情が変わる奴だったけ。最初の頃なんて無表情すぎて笑った記憶がある。 「いや…今日どうだった?」 俺は言おうとした事をやめて今日の感想を聞いた。 すると小林は考えた後に「アナタの知らなかった事を知ることが出来ました。」と言った。 俺が「そっかーどんな事だろうなー」と流すと小林は真剣な表情で俺を見つめてきた。 「失礼な事を聞きますが、暁さんってもしかしてゲイなんですか?」 その内、聞かれるだろうと思っていたがまさかそれが今だったとは…。俺は内心何も思わなかった。それは自分が楽になりたいからなのか、それとも嘘を付き続ける事に疲れてしまったのか。 「…そうだよ。俺は…ゲイだ。男として男を好きになる。」 俺は意を決して口を開いた。カラカラになる口内が鬱陶しく感じた。 返事をしない小林はどんな表情でいるのか見えない。俺が下を向いているからだ。空に溶けるように自分の周りだけ酷く暗く感じる。 「…そうですか。」 間を置いて小林がそう一言口に出す。 「どうして俺がゲイだって気付いたの…?」 俺は何も言わない小林に恐る恐る声を掛ける。 「暁さん…社員旅行の時、大浴場に行かなかったでしょう?」 「…は?」 小林は歩き出しながらながらそう言った。 俺もつられるように歩けば人の居ない公園に着いた。 小林なりに気遣ってくれたのだろうか。 「大浴場…?」 「そう。それと、貴方潔癖症じゃ無いでしょ絶対?」 「…あぁ。なるほど。」 そういえば確かあの時そんな事を言った記憶がある。 「それに、佐藤さんの告白を直ぐに断ってた事ですかね。」 「…っ!」 何故か俺が告白された事を知っているのだろうか。俺は訳が分からず小林を見るとベンチに腰掛けて白い息を吐いていた。 「あの時、帰るのが遅い暁さんを心配して見に行こうとしたら、あなたが告白されている所を見てしまいました。…その時に普段ならじっくり考えて行動する貴方が、時間を置かず返事をしていた事に少し違和感を感じたんです。」 はーっと関心してしまった。勘がいいと言うか察しがいいというか…。 「それに、今日の事があって確信に変わりました。 …言いたくないこと言わせてしまって申し訳ありませんでした。 」 そう言って小林は立ち上がりピシッと見とれるくらいの謝罪を俺にした。 放心状態の俺は「あぁ」と返すしか出来なかった。 ───言わせたくないことを言わせてしまって申し訳ありませんでした。 そんな事初めて言われた。 今日は想定していない事が起きすぎている。 それからの事は記憶が曖昧でよく覚えていない。 家まで送ってくれた小林にありがとうと言って別れて、それから…。 涙が何故か出てきてひとしきり泣いて、泣いて…泣いて。 それから、会社に出す為の辞表を書いたりして。 小林が会社にばらすわけが無いと信じたいが、望まぬカミングアウトをする前にこっちから逃げるのが一番だ。

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