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第15話
いつもの様に会社に出社すると、小林がもうデスクワークを始めていた。
「おはようございます。」
「…おはよー。」
いつもの様に挨拶をしてくる小林に何となく挨拶を返した。
何処か気まずさを感じるが、出来るだけいつも通りに接した。しかし、察しのいい小林は直ぐに「二日酔いですか?」と聞いてきた。
「んなわけあるか。……ただ少し気まずいんだよ。」
俺は正直に小林に言うと小林は、はぁっとため息をついた。
「大丈夫です。誰にも言いません。」
小林は俺を安心させるように穏やかな声でそう言った。それに、彼の表情を見ると何処か申し訳無さそうだった。
「あ…いや。そういうのじゃなくて…。なんて言うかこう…。」
「こう…?」
あぁもう。嫌だこの感じ。
「いや。何でもない。ほら、課長が呼んでる…行ってこい?」
「……はい…。」
少しだけ寂しげな表情を浮かべた小林に俺は、心を乱されそうになる。
それに、こんなにモヤモヤするのは何故だろう。ゲイだって事がバラされるとか、そういうのよりも。小林という男に知られた事が何故か……悲しかった。
「はぁ……。キツいわ。」
俺は思っていたよりも小林の事が好きだったらしい。知られたくない秘密を知られて悲しいとか……乙女かよ。
それに自覚をしたら何故か急に恥ずかしくなってきた。それこそ乙女かよ。
「マジか~。」
俺は項垂れながら机に突っ伏した。
いつも本当の自分を見つけられないように素を隠していた。それが昨日の事で全て水の泡となってしまった。
息を吐いて目を閉じ、心の中を整理していると足音が近付いてきて話しかけられた。
「どうしたんです?…やっぱり体調悪いんですか?」
振り向くと小林が心配した顔で立っていた。
本当にコイツは……。
「なんでもない。」
「でも、顔色が……っ。」
「なんでもないって言ってるだろ!!」
俺を気遣ってくれている事はわかっているのだが、俺の心に余裕が無さすぎて思わず怒鳴ってしまった。こんな、子供のような余裕のない対応をしてしまい俺は失敗したと思った。普段、あんまり人を自分のパーソナルスペースに入り込ませない為、こうやって心に余裕の無い時にしつこくされるのはやめて欲しい。
優しさを踏みにじってしまったことは悪いが、今はコイツの事で悩んでいるから離れていて欲しい。
「…すみません。仕事に戻ります…。」
俺の様子を汲み取ってか小林はもうそれ以上、話しかけては来なかった。それでも、小林は少し心配そうに俺をみた。
◆◇◆◇◆
今日一日、仕事が手につかなかった。
俺は自宅に帰ってきてため息をついた。何度も何度も小林を見てしまい仕事に集中出来なかったのだ。
小林が女と話していると聞き耳を立ててしまったりと、思い返せば少し煩わしい行動をとってしまった。
恋は盲目と言ってしまえばそれまでだが、まだ俺は自分の気持ちに整理がついていないようだ。
「はぁ……。ん?」
また、ため息をついてソファに腰掛けると倒れたバッグから昨日、書いた辞表の封筒が床に落ちた。
俺はそれを拾い上げてまた鞄にしまった。
昨日は切羽詰まって書いてしまったけれど、まだ仕事は辞めなくて良さそうだ。けれど、何かあった時のために一応辞表は持っておくことにした。
気持ちを切り替える為にも夕食をしっかりとり、悪い気を洗い流すように風呂にも入る。
夕食や風呂を終わらせベッドに寝転がったら、少し火照った額に手を乗せて目を閉じると、少し頭痛がしてきた。
小林が言っていたように体調が悪かったのかもしれない。
「キツく言ったこと謝らないとな。」
俺は気だるさを感じながらも、そのまま掛け布団を被り眠りについた。
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