1 / 132
あいつとの出逢い 1
――ああ…………美しく形成されたパフェがドロドロに溶けて崩れていく……
学校帰りにふらりと立ち寄ったファミレスで、大好物の抹茶パフェを一人でのんびり堪能するはずだった。
なのに……。
何を間違ってこうなったんだろうか……。
青海那津(おうみなつ)は、なぜか周囲の好奇な視線を痛いほど浴びていた。
「お願いします師匠! どうか、僕をあなたの弟子にしてください!」
どう考えても、100パーセントこの目前に座る男のせいなのだけども。
「首を縦に振ってくださいませんか師匠! お願いします!」
「あの、師匠って……意味わかんないよ。……いきなりそんなこと言われても困るんだけど」
大抵の人は困ると思う。
「お願いします! そこをなんとか!」
津は甘いスイーツが大好物だ。特にパフェ類に目がない。
いつもは友達のハナやイチカと三人で行くことが多いのだが、今日は数学の追試があったため、一人で下校した。
学校帰りのスイーツは習慣化しているので、こうして一人まったりしていたというわけである。
そしたらいきなり、見知らぬ男がテーブルの正面に座った。
突然の予測不能の事態にびっくりしずぎて声も出せず、固まっている那津にその男は、弟子入りを懇願してきた。
もしかしたら知り合いかもしれないと記憶を探ってみたが、思い出せない。
やっぱり知らない男だ。
師匠なんて呼ばれたことにも驚いたが、同時に男の、超がつくほどのダサい格好にも衝撃を受けた。
「お願いします! お願いします!」
那津は、緊張と脱力とを両方含んだ、盛大なため息をついた。
「……たのむからさあ、そんなでっかい声出すのやめてくんないかなあ。さっきから周りの人が注目してるし、俺、チョー恥ずかしくていたたまれないんだけど……」
駅から少し離れた、国道沿いのファミレス。
この日は、六月に入ったばかりだというのに肌寒い日で、長袖のシャツでちょうどよかったと、ついさっきまで感じていた。
なのに、店内の温度が急速に上がった気がする。
その原因はやはり、この、暑っ苦しい男に決まっているのだが。
初対面だというのに、男はこっちが引くほど強引に「お願いします!」と、店内中に響き渡るボリュームで叫ぶ。
「ご迷惑なのは百も承知です! ですが、どうしても僕は、あなたのようなカッコいい男になりたいんです! どうかその方法を、僕に伝授してくださいませんか!」
「いや、だから」
「どうか、僕の望みを聞き入れてください!」
「ちょっと!」
「一目惚れなんです!」
ともだちにシェアしよう!