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あいつとの出逢い 1

――ああ…………美しく形成されたパフェがドロドロに溶けて崩れていく…… 学校帰りにふらりと立ち寄ったファミレスで、大好物の抹茶パフェを一人でのんびり堪能するはずだった。 なのに……。 何を間違ってこうなったんだろうか……。 青海那津(おうみなつ)は、なぜか周囲の好奇な視線を痛いほど浴びていた。 「お願いします師匠! どうか、僕をあなたの弟子にしてください!」 どう考えても、100パーセントこの目前に座る男のせいなのだけども。 「首を縦に振ってくださいませんか師匠! お願いします!」 「あの、師匠って……意味わかんないよ。……いきなりそんなこと言われても困るんだけど」 大抵の人は困ると思う。 「お願いします! そこをなんとか!」 津は甘いスイーツが大好物だ。特にパフェ類に目がない。 いつもは友達のハナやイチカと三人で行くことが多いのだが、今日は数学の追試があったため、一人で下校した。 学校帰りのスイーツは習慣化しているので、こうして一人まったりしていたというわけである。  そしたらいきなり、見知らぬ男がテーブルの正面に座った。 突然の予測不能の事態にびっくりしずぎて声も出せず、固まっている那津にその男は、弟子入りを懇願してきた。 もしかしたら知り合いかもしれないと記憶を探ってみたが、思い出せない。 やっぱり知らない男だ。 師匠なんて呼ばれたことにも驚いたが、同時に男の、超がつくほどのダサい格好にも衝撃を受けた。 「お願いします! お願いします!」 那津は、緊張と脱力とを両方含んだ、盛大なため息をついた。 「……たのむからさあ、そんなでっかい声出すのやめてくんないかなあ。さっきから周りの人が注目してるし、俺、チョー恥ずかしくていたたまれないんだけど……」 駅から少し離れた、国道沿いのファミレス。 この日は、六月に入ったばかりだというのに肌寒い日で、長袖のシャツでちょうどよかったと、ついさっきまで感じていた。 なのに、店内の温度が急速に上がった気がする。 その原因はやはり、この、暑っ苦しい男に決まっているのだが。 初対面だというのに、男はこっちが引くほど強引に「お願いします!」と、店内中に響き渡るボリュームで叫ぶ。 「ご迷惑なのは百も承知です! ですが、どうしても僕は、あなたのようなカッコいい男になりたいんです! どうかその方法を、僕に伝授してくださいませんか!」 「いや、だから」 「どうか、僕の望みを聞き入れてください!」 「ちょっと!」 「一目惚れなんです!」

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