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あいつとの出逢い 2
「だから! ちょっと待てってば!」
一言喋るごとに前のめりになっていく男は、勢い余ってテーブルに額をゴチン! と打ち付けた。
「うひゃっ」とカエルのように飛びあがり、患部を押さえる指の隙間から赤くなった肌がのぞく。
先月までの自分なら、容姿を褒められて素直に嬉しいと感じたことだろう。
けれど……。
「一目惚れって……。あのねえ、誤解受けるようなことをでっかい声で言わないでくれる? あんたのせいで、さっきからえらい注目浴びてんだから。……とにかく、いったいあんたはどこの誰なの」
額をさすりさすりしつつ、再びテーブルと仲良くなっていた男は、はたと我 に返ったように顔を上げ、両手をペンギンのようにバタつかせた。
そして、いくらか声のボリュームを落とす。
「た、たいへん失礼しました! 僕は、二ツ橋大学法学部一年在学の、七嶋小次郎と申します!」
「二ツ橋大学……」
二ツ橋大学といえば、偏差値が中の下の下……の高校に通う那津でも知っている、超難関の国立大学だ。
国立の大学生なんて、生で初めて見た! と感動しそうになり、しかし、すぐに我に返った。
「国立行ってる人間が、底辺高校に通う俺みたいなヤツに簡単に頭下げるなよ」
七嶋小次郎と名乗った男は、分厚い眼鏡奥の、小さな目をパチパチさせ、さらに真面目な顔つきになった。
「……あなたは、優しい人なんですね。……やっぱり、僕の目に狂いはなかった」
「はい?」
七嶋は、やたらに歯並びの良い口元を全開させた。
笑ったのだ。
「僕はなんとしても、あなたのような優しくてかっこいい男になりたいんです。ですから、ぜひ、僕をあなたの弟子にしてください。お願いします!」
頭をきっちり下げ、ビシッと右手をこちらへ差し出す。
端から見れば、明らかに男が男に交際を申し込んでいる図だ。この七島という男は、とんだ勘違い野郎である。
周囲の好奇な視線が痛い......。
店の従業員も、七嶋の騒音まがいの声を注意しようと迷っているらしく、柱の陰からこちらの様子をうかがっている。(なぜか全員笑顔で)
「俺は別に......かっこよくないし」
那津は吐き捨てるように呟いた。
「いえ、あなたは僕の理想なんです。もしかしたらご自分では気づかれていないのではありませんか? あなたはとても素敵です」
「はあ......」
確かに那津は、幼い頃から容姿を褒められることが多かった。
生まれつきの亜麻色の髪、健康的な小麦色の肌、色素の薄い二重の双眸。はっきりいって女子には受けの好いルックスだ。
けれど、今はその自信が崩れかかっている。
面と向かって褒められたのに、胸の中に広がるのは苦い思いだけだ。
「あの、そんなにガン見しないでもらえます?」
「あっ! す、すみません。つい……」
謝りつつも、七嶋は那津を食い入るように見つめ、視線を外さない。
可愛い女の子に見つめられるなら本望だが、こんなおかしな格好のヤローなんかごめんだ。
けれど、那津も怖いもの見たさでつい七嶋を見てしまう。
その服装や髪型は、本当にひどいものだった。
真っ黒な髪はボサボサで、白いシャツは首回りが伸びてよれよれ。
どこで購入したのかとツッコミたくなるほど、ビンテージ......のわりにはレトロすぎるジーンズ。(ジーパンと呼ぶのが正しいかもしれない)
靴は......。
この位置からだと、確認できないが、大体どんなかは想像できる。
そして、なにより......。
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