3 / 132
あいつとの出逢い 3
ビン底眼鏡をかけているのに衝撃を受けた。
「これがビン底眼鏡というヤツか! 実際かけるとこんな感じなのか!」
と、不覚にも感動してしまった。
不自然に小さい目が冗談ではなくコントの道具にしか見えない。
とにかく、こんなへんてこりんな格好のヤツと一緒にいるところを、知り合いにでも目撃されたらたまったものではない。
那津は、自分がよくも悪くも目立つ容姿だという自覚がある。
だから、周囲を気にせず一人でまったりスイーツを堪能したいときはこのファミレスに来る。
ここは子供連れの若い母親たちとか、ランチを摂る営業マンとか、年配の団体だとか、いつもそんな客層だ。
店員を除いて、同年代の客はほぼいない。
だからこの七嶋という男が現れるまで、この場所は那津の憩いの場所だったのだ。
デートでは絶対注文しない特盛の抹茶パフェを味わって、悲惨な現実から逃避したかったのに、とんだ邪魔が入ってしまった。
「お願いします! 弟子にしてください!」
七嶋は風を起こす勢いで、再びガバッと頭を下げた。
今度はテーブルにぶつけなかったことにホッとする。
そんなことになったら、また注目を浴びてしまうからだけど。
「お願いします!」
それにしてもなんなんだ? この七嶋という男は。
国立大学生ってのは、こうも自己中心的な人間ばかりなんだろうか。
他に知り合いがいないから比べようがないけれど。
――はあ……。もう、ため息しか出ねえ……。
「あのさ。――七嶋さん? 今日初めて逢ったばかりで俺あんたのこと何にも知らないし、そもそも弟子なんか取るつもりないし、いくら頭下げてても無駄だから、諦めてくれないかな……」
七嶋は諦める気がないのか、頭を下げ続けている。
この様子だと、那津が受け入れるまでここを動くつもりはないのかもしれない。
「僕はあなたが首を縦に振るまで、決して諦めませんから」
やっぱりそうか。
ーーもう無理。
付き合いきれねえ。
那津は七嶋に気づかれぬよう素早く伝票をつかみ、クリームのついた口元を拭うと、鞄を抱え出口へダッシュした。
ともだちにシェアしよう!