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第27話

『君の名は…』 1週間の入院のあと、俺は眞仁と赤ちゃんと共に我が家へと帰還した。ただいまと部屋に入ると先に入って換気をしていてくれた眞仁がおかえりと返してくれる。それを聞いて思わず泣きそうになったのは眞仁には内緒だ。 それが昨日のこと。赤ちゃんはすごくいい子でおっぱい飲んでオムツが綺麗ならスヤスヤ寝ていてくれる、起きていても別に泣くわけでもなく自分の手で遊んだりして本当にいい子だ。目下の問題は… 「名前どうしようか…。」 産まれる前はいっぱいいっぱいで名前を考える余裕がなかった。つまり候補が一つもない。 「君はどんな名前がいい?」 生後1週間そこそこの赤ん坊に聞いても答えが返ってくるわけないがどうせなら一緒に考えたいと思った。 「眞仁か陽茜の名前から一文字とって入れる。」 とは決まっているもののそこで2人の意見が割れたのだ。まぁ要するに俺は眞仁の眞が良くて眞仁は俺の陽がいいらしい。 「一条と繋げた時にリズムがいいのが良い、かっこいい誇りに思える名前がいい、何より自分が愛されてるって分かる名前がいい。」 そんな風に考えてはいるものの具体的な案は出ない。早く名前つけてあげたいのに…。そんなある日の事だった。 「陽茜、これはどうだ?」 眞仁が少し得意げに見せてきた二文字それは、 『陽仁(あきと)』 2人の文字を取ってつけた名前。由来は 『太陽のように明るく他者に対する思いやりを持った子になってほしい。』 「どうだ?」 「…いい、すごくいい。」 2人の子供で愛されて産まれてきた。それが一目でわかる。それに由来が素敵だ。この上なくこの子に相応しい名前だと思える。 俺はベビーベッドに寝ていた赤ん坊を抱っこすると話しかけた。 「少し遅くなっちゃったけど、君の名前が決まったよ?君の名は陽仁(あきと)、太陽のように明るい思いやりのある優しい子に育って欲しい。そんな風に考えてつけた名前。」 言っている意味は分からないだろうけれどなぜだか陽仁が喜んでいると感じる。 「陽仁、君は少し複雑な家庭に産まれてきた。」 今度は眞仁が話しかける。 「大きくなったらまた話すけれど、君は少しだけ当たり前から外れている。でも、それはほんの些細なことで君が望まれて産まれてきたこと、俺達の愛情を一身に受けて育っていくことは他と変わらない〝当たり前の事実〟だ。だからどうか人と違うことに悩まないでほしい。もし不安になったらいつでもぶつけてくれ。家族で解決していこう。」 眞仁のその言葉は今まで家族というものを悲観してきた俺にも響いた。困ったこと、悲しいこと、苦しいこと。1人では重たい荷物でも2人で、3人で持てば軽くなる。きちんと言葉にすることが大事なんだ。 ありがとう陽仁、君は俺達に色んなことを教えてくれた。だから今度は俺達が君に色んなことを教えていこう。どんな時も支えあって乗り越えよう。だって俺達は3人4脚の家族なのだから。 『君の名は…』終

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