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第26話

眞仁side 彩人から陣痛が酷くなってきたからタクシー呼んで病院に連れていくと連絡があったのが2時間前。漸く会議を終わらせて陽茜のかかりつけの病院に行った時には陽茜は既に分娩室に入っていた。 顔馴染みになった看護師を捕まえ陽茜の所へ連れて行ってもらう。「立ち会いますか?」の質問に迷いなく「はい」と答えると「一条さんらしい」と少し笑われた。 「陽茜、遅くなってすまない。」 分娩台に横たわる陽茜の横に膝をつき目線を合わせるとその手を握りしめる。休みない陣痛に襲われる陽茜は息を乱し、頬を赤く染めながらへニャっとした笑顔を浮かべた。 「まひと…まひとぉ。」 俺の奥さんは何故こんなに可愛いのだろう。こんな時にも関わらず抱きたくなってくる。 「変わってやれないけれど、傍にいるから。」 「まひとが傍にいてくれるだけですごく安心できる…。」 「そうか?良かった。」 そうして他愛もない会話をしている途中また陣痛が強くなったらしく握っている手に力が籠る。 一番大きな波らしく、助産医さんが陽茜に 「思いっきりイきんで下さいね。呼吸の仕方はさっき教えた通り『ヒッヒッフー』ですよー。」 「あ"あ"あ"あ"…イ"ッ、クゥゥゥ…アッアアア。」 陽茜から聞いたことのないような叫び声が上がる。それと同時に繋いだ手が痛いほどに握りしめられた。 そこから先は記憶が曖昧だが、ひたすらに陽茜の名前を呼び続けた覚えがある。「頑張れ」と繰り返し繰り返し言ったと思う。 長い長い戦いの果て分娩室に盛大な産声が響き渡った。 「オンギャァァオンギャァ」 放心してしまった俺と陽茜は助産医の 「元気な男の子ですよ!」 の声にハッとなる。そして助産医から手渡された小さな包みをそっと覗き込んだ。 「アア…やっと会えたぁ。」 そう呟く陽茜と小さいながら必死に鼓動を鳴らす生命に愛おしさが溢れ出す。2人をまとめて抱きしめると今の気持ちをありのままに告げた。 「生まれてきてくれて、産んでくれて、俺に家族をくれて本当にありがとう…。」 「こちらこそ、この子をくれてありがとう。こんな俺を愛してくれてありがとう。」 見つめあって笑い合う。この幸せな時間を長くするために俺は精一杯のことをしよう。何に変えても必ず守ろうと決意する。 家族としてはまだまだの俺たちだけどこれからは新しい生命も共に3人4脚で1歩ずつ進んでいこう。 まだまだこれから先不安なことだらけのはずなのに俺の心はこの上ない幸せを噛み締めてポカポカと暖かかった。 『こんにちは!』end

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